h_kaishi
Online edition:ISSN 2758-089X

急性脊髄損傷における Interleukin-10の二次的損傷抑制効果に関する実験的研究

 脊髄損傷の病態は,神経細胞および神経伝導路の直接外力による損傷とその後に引き続いて起こる二次的損傷に大別される.二次的損傷の進展メカニズムのなかで,マクロファージやマイクログリアなどが放出するサイトカインによる急性炎症反応は,その進展を助長する大きな因子の-つである.また多量の一酸化窒素(NO)は神経毒性があり,活性化されたマクロファージやマイクログリアは誘導型NO合成酵素(iNOS)を発現しNOの産生涯となり,二次的損傷の進展に影響を与える.  本研究では抗炎症性サイトカインであるInterleukin-10 (IL-10)を急性脊髄損傷ラットへ全身投与し,これによるマイクログリア活性に及ぼす影響について検討し,また組織障害の進展とマクロファージの分布について時間的空間的に評価した.実験にはラットを用い,第7胸椎レベルで椎弓切除後 30gの重錘を1cmの高さから落下させるWeight drop (Allen)法で急性脊髄不全損傷モデルを作成した.脊髄損傷30分後にIL-10を2 Hg/mlを1 ml左大腿静脈から投与したIL-10群と生理食塩水を1 ml投与したコントロール群の2群に分け,それぞれ損傷24, 72時間後に潜流固定を行い,抗OX-42抗体,抗EDl抗体,抗iNOS抗体を用いて免疫組織学的に検討を行い,さらに血清NOx値を測定し,また運動機能障害も検討を行った.  その結果IL10を全身投与することで壊死組織の進展が抑制され,マイクログリア活性は抗OX-42抗体を用いた免疫染色により24時間後, 72時間後共に細胞形態から活性化の抑制が示唆された.また抗EDl抗体陽性マクロファージ/マイクログリアは両群ともに72時間後に著明に増加していたが,頭側4mm,頭局側6mmと損傷部から離れるにつれてコントロール群IL-10群に有意差を認めた.また貧食形態を有するマクロファージ/マイクログリアは同時に抗iNOS抗体にも陽性であった.受傷前, 30分後, 24時間後, 72時間後と血液を採取し, NOの代謝産物であるN02, NO3-を測定したところ,コントロール群IL-10群ともに受傷後30分には増加を認め,その後次第に低下し,受傷後24時間では両群間に有意差はなかったが, 72時間後では有意差を認めた.さらに24時間後と72時間後に運動機能障害の評価を行い,コントロール群IL-10群とも24時間と比較して72時間後には有意に改善していたが,両群間には差は認められなかった.  以上の結果からIL-10を全身投与することで,起急性期ではあるがマクロファージ/マイクログリア活性化の抑制により炎症反応の悪循環を断ち,その結果二次的損傷進展の軽減効果が示唆された.(平成15年10月14日受理)
著者名
間部 毅
29
3
203-219
DOI
10.11482/KMJ29(3)203-219.2003.pdf

b_download