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Online edition:ISSN 2758-089X

間欠的一酸化窒素吸入療法が血中一酸化窒素濃度に及ぼす影響

【背景】一酸化窒素吸入療法(inhalation of nitric oxide:INO)は,肺高血圧症やacute respiratory distress syndrome(ARDS)などの治療法として用いられ,肺血管を選択的に拡張して肺動脈圧を低下させ,動脈血酸素化を改善することが報告されている.NOの吸入方法としては,副作用を軽減し,換気血流ミスマッチを防ぐ観点から間欠的INOが注目される.これまで,吸入されたNOの動態については,肺血管内で極めて短時間に酸化・失活されると考えられてきたが,最近,吸入されたNOが肺循環を経て,体循環の NO動態に影響を与える可能性が示されている.したがって,繰り返しNOを吸入させることで体循環のNO動態が影響を受ける可能性が考えられる.そこで,本研究では,間欠的にNOを吸入させた時の体循環血中NO動態をin vivo計測用NOセンサを用いて検討した. 【方法】全身麻酔したブタ(n=7)を対象に,右頚動脈及び左大腿動脈から挿入した5Frのシースを介してNOセンサ(amiNO-700,Innovative Instruments,Inc.,USA)を挿入し,センサ先端の感知部を弓部大動脈と左腸骨動脈内に留置した.人工呼吸器に連結したNO吸入装置を介してNO(1ppm)を吸入させた.一回のNO吸入時間は15分間とし,15分間のNO吸入休止期間をおいて,同様のNO吸入を計4回行った. 【結果】NO吸入を繰り返した結果,弓部大動脈,左腸骨動脈における血中NO濃度は1回目(弓部大動脈:0.9±0.8nM,左腸骨動脈:0.1±0.9nM),2回目(弓部大動脈:1.4±1.0nM,左腸骨動脈:1.1±1.0nM),3回目(弓部大動脈:1.1±1.0nM,左腸骨動脈:0.5±1.0nM),4回目(弓部大動脈:1.5±1.1nM,左腸骨動脈:0.7±0.8nM)と,いずれの部位でも再現性をもって上昇した.NO吸入による血中NO濃度変化は,弓部大動脈と左腸骨動脈の間,吸入回の間で有意差がなかった.NO吸入は脈拍数,動脈圧に有意な影響を与えなかった. 【結論】間欠的NO吸入における体循環のNO濃度変化をNOセンサを用いて,安定して評価することができた.NOを繰り返し吸入させた場合,吸入の度に弓部大動脈だけでなく,より末梢の左腸骨動脈レベルにおいても血中NO濃度が上昇することが示された.その際,NO吸入の繰り返しによる動脈血NO濃度上昇の減弱は認められず,間欠的 INOにおいて,吸入されたNOが再現性をもって,肺循環を経て体循環のNO動態に影響を及ぼすことが明らかになった.(平成19年10月22日受理)
著者名
稲垣 英一郎
34
1
47-56
DOI
10.11482/2008/KMJ34(1)047-056.2008.jpn.pdf

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