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Online edition:ISSN 2758-089X

ニワトリ肢芽のプログラム細胞死におけるプロテアーゼの解析

 高等動物の肢芽の形態形成過程において,プログラムされた細胞死(Programmed Cell Death以下PCD)が起きることが知られているが,その分子機構については不明な点が多い.我々は器官培養法を用いて,指間組織のPCDに対する種々のプロテアーゼ阻害剤の影響を調べた.死細胞を染色するナイルブルー生体染色法により,カテプシンLの阻害剤がナイルブルー陽性顆粒の集積を抑制することを認めた.そこで,カテプシンLがPCDに関与しているか否かの確認のため,DNA断片化の検出を行った.カテプシンL阻害剤によってナイルブルー陽性顆粒は減少したが,DNAラダーの形成やTUNEL陽性細胞の出現には影響がなかった.このことはカテプシンLの阻害剤はPCDを抑えているのではなく,マクロファージ様細胞への死細胞の取り込みを抑制していることを示唆している.次に,指間組織中の種々のプロテアーゼの活性を測定したところ,培養前と比べて確かにカテプシンLの活性は上昇していた.さらに活性化したカテプシンLの局在を調べたところ,貪食される前の死細胞とマクロファージ様細胞が貪食した死細胞に一致していた.このことから,活性化したカテプシンLは死細胞中に局在していることがわかった.このカテプシンLが死細胞内のタンパク質を分解し,その分解された物質が細胞表面に何らかのシグナルを送り,マクロファージ様細胞に認識され,貪食されたと考えられる.また,カスパーゼに関しては,個々の阻害剤によるナイルブルー陽性細胞抑制の効果が見られなかったが,カスパーゼ3/7の活性のみ10倍に上昇していた.このことから,細胞死のシグナル伝達経路の中にカテプシンLからカスパーゼ3/7にシグナルが送られている可能性があると考えられた.(平成15年5月8日受理)
著者名
福島 直美
29
2
87-97
DOI
10.11482/KMJ29(2)087-097.2003.pdf

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