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Online edition:ISSN 2758-089X

Cervical Intraepithelial Neoplasia Grade 1 (CIN1)の症例追跡研究 ―高リスク型 Human Papillomavirus 検出状況と細胞診学的予後の検討ー

 子宮頸がんは,女性特有の悪性腫瘍のなかで3番目に多い死因となっている.Cervical Intraepithelial Neoplasia(CIN)は子宮頸がんの前がん病変とされており,その組織学的診断からCIN Grade1(CIN1),Grade2(CIN2),Grade3(CIN3)に分類され,それぞれ軽度異形成,中等度異形成,高度異形成および上皮内癌に対応している.CINの標準的な取り扱いとして,CIN1では経過観察,より高度なCIN3では病巣切除を目的とした外科的治療(円錐切除,子宮摘出等)が推奨されている.なかでもCIN1は,一時的な高リスクタイプのHPV(HR-HPV)感染による細胞変化とされその多くは自然治癒すると考えられているが,再燃するケースも少なくない.  1995年4月から2005年3月までの間,組織学的にCIN1と診断された243例の2663受診,1631回のHPV検査を対象として,細胞診正常化と高リスク型ヒトパピローマウイルス感染(HR-HPV)の検出状況との関連について解析することを目的とした単一施設での症例追跡研究である.  【目的】日本女性におけるCIN1の自然史がHPV感染の有無,またはHPV-DNAタイプの検出状況によって異なるかどうか評価すること.【方法】1995年4月から2005年3月の間にCIN1と診断された243例の患者の追跡研究である.登録条件は,過去にCINに対する治療歴を有しない75歳以下の症例とし,組織診でCIN1であっても細胞診でⅢbを指摘された症例や「細胞診正常化(2度以上続けて細胞診の異常を指摘しない場合)」を認めることなく追跡期間が12ヶ月未満であったものは除外した.観察間隔は3ヵ月ごととし,細胞診およびコルポスコープ検査を毎回実施.HPV検査(E6-E7,PCR法)については,「HPV陰性化(2度以上続けてHPVを検出しない場合)」とされるまでは毎回実施した.経過中の組織診については,細胞診またはコルポスコープ検査で悪化が疑われない限り実施していない.統計解析とし「細胞診正常化」「HPV陰性化」について,カプラン・マイアー法を用い,Log-rank検定を行った.有意水準は5%未満とした.【結果】追跡期間の中央値は,33.2ヵ月(6-128で変動する)であった.243例の患者のうち,143例で HPVが検出された(HPV陽性群).143例の患者のうち,109例では同じ型の検出された HPVの持続感染を認めた.109例において最も多く検出されたHPV-DNA型は52型で(n=41,Persistentグループの37.6%),16型(n=30,27.5%),58型(n=30,27.5%)がこれに続いた.「HPV陰性群」における累積細胞診正常化率は24ヵ月後85.2%,36ヵ月後98.4%であった.これと比較し「HPV陽性群」における累積細胞診正常化率は有意に遅延した(65.1%と74.6%,それぞれ.)が,同一タイプの持続感染の有無で検討したところ,「非持続感染例」と「HPV陰性群」との間に有意差は認められなかった.【結論】本研究で高頻度に検出された16型,52型,58型は,持続感染例に多く認められた.感染状況からの解析で,CIN1における「非持続感染例」は「HPV陰性群」と同様に経過観察のみとして取り扱ってもよいとする結果を得た.今後,同一タイプの持続感染もつCIN1患者における外科的処置の役割が明らかにされなければならない.(平成18年10月25日受理)
著者名
小田隆司
33
2
137-151
DOI
10.11482/2007/KMJ33(2)137-151.2007.pdf

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