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視覚性入力により誘発される悪心とそれに伴う自律神経反応

 本研究は,ヒトにおいて生体防御反応の一つである嘔吐の前兆現象である悪心に到るまでの自律神経反応を定量的に解析することを目的とした. 悪心を誘発させるために,低頻度かつ不規則な振動および回転などを加えたビデオ画像,すなわち動揺性視覚刺激を健常成人19名に注視させた.悪心の自覚症状は,実験前後に行った13項目にわたるアンケート調査の各項目について,5段階評価の回答を得て数値化した.回答値の平均スコアを実験前後で比較したところ自覚症状は有意に悪化した(P<0.001).動揺性視覚刺激中に,自律神経反応の指標として,胃電図,心電図,呼吸運動,手掌部発汗量,前額部発汗量および指尖部末梢血流量の変化を連続的に測定した.視覚刺激を与えない状態をコントロール(第1相)として,ビデオ放映時の前半3分を第2相,後半3分を第3相,ビデオ放映後5分間を第4相とし,コントロール時の値と比較検討した. 胃電図より解析した胃運動の振幅は第3相においてコントロールと比べ有意に増加した(P<0.05).しかし,胃運動の周波数成分である徐波,正常波,および頻波それぞれの振幅が全振幅に占める割合には,徐波が減少する傾向はあるものの有意な差は認められなかった.心電図より解析した平均心拍数はコントロールに比べ第2相で有意に減少したが(P<0.05),この減少は一過性であった.呼吸数はコントロールに比べ,ビデオ放映中有意に増加した(P<0.05).手掌部の発汗には,実験中有意な増減は見られなかったが,前額部の発汗はビデオ放映中有意な増加が見られた(P<0.05).また指尖部末梢血流量については,第2相で有意な減少が見られたが(P<0.05),それ以降では有意な増減は認められなかった.さらに,空腹群(6名)と食後群(13名)の胃電図上の変化を比較した結果,空腹群では第2相における振幅増加が抑えられる傾向が見られた.悪心の自覚症状においても食後群の悪心スコアは空腹群に比べて有意に高い値を示した(P<0.05). 以上より,悪心という自覚症状の発生に到る過程において,交感性及び副交感性の自律神経反応が出現していることが明らかになった.         (平成14年9月10日受理)
著者名
氷見 直之
28
4
229-241

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