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Online edition:ISSN 2758-089X

Dahl食塩感受性高血圧ラットを用いた慢性膵炎の成因と治療に関する研究

 Dahl食塩感受性高血圧ラット(DS-S)に自然発症する慢性膵炎が降圧剤投与により抑制されるか否かを検討した.5週齢雄性DS-SおよびDahl食塩抵抗性ラット(DS-R)に8%高食塩食の投与を開始し11週齢の実験終了まで投与を続けた無治療群(DS-S ; n =20, DS-R ; n =8)および同時に降圧剤を11週齢の実験終了まで投与するAngiotensin-Convertizing-Enzyme (ACE)阻害剤(Trandolapril)投与群(DS-S ; n =20, DS-R ; n =8)とCalcium (Ca)拮抗剤(Verapamil)投与群(DS-S ; n =20, DS-R ; n =8)の6群(DS-S ; 60匹, DS-R ; 24匹の計84匹)をそれぞれ作製し経時的に体重,血圧,膵血流量測定,膵病理組織学的検索およびアポトーシスの検索を行った.結果は11週齢のDS-Sにおいて無治療群では著明な高血圧を認め,病理組織学的に膵内血管の内膜肥厚による内腔狭小化と著明な膵実質の線維化と炎症性変化が観察された.しかし同週齢のACE阻害剤投与群では高血圧は発症せず膵実質病変の発症が抑制された.さらに同週齢のCa拮抗剤投与群でも高血圧は発症せず膵実質病変は観察されなかった. DS-Sにおける膵血流量測定では11週齢におけるACE阻害剤投与群は無治療群およびCa拮抗剤投与群に比べて血流量の増加がみられた.またDS-Sの11週齢における無治療群では慢性膵炎の膵内線維化部分および線維化周辺にTUNEL陽性細胞はみられず線維化の機序にアポトーシスは直接的な関与はしていないものと推測された.一方,11週齢のDS-Rにおける無治療群,ACE阻害剤投与群およびCa拮抗剤投与群の治療群ではいずれも高血圧は示さず,また膵内血管の肥厚や膵炎の発症などの病理組織学的変化は観察されなかった。DS-Rにおける膵血流量測定では各群間でそれぞれ有意差はみられなかった.以上より降圧剤を投与したDS-Sの治療群では高血圧の発症を認めず,また膵内血管および膵実質の病変が抑制されることが判明した.即ち高血圧を予防することにより膵炎の発症を抑制した事が示された.                               (平成13年12月18日受理)
著者名
久保添 忠彦
28
1
11-21
DOI
10.11482/KMJ28(1)011-021.2002.pdf

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