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Online edition:ISSN 2758-089X

糖尿病性腎症進展過程におけるミトコンドリア酸化ストレス関与の意義

 糖尿病における臓器障害の発症・進展機構に酸化ストレスが関与していることが明らかとなっている.糖尿病性腎症進展過程における,活性酸素によるミトコンドリア機能異常,ミトコンドリアDNA(mtDNA)の酸化的修飾の存在及びその意義について検討した.streptozotocin (STZ)糖尿病モデルを作成し,まず高血糖状態下での糸球体内活性酸素発生について検討した.コントロール群(C群)と比較し,糸球体内での活性酸素発生の有意な増加を認めた.次に,核酸の酸化的修飾の状態を8-hydroxy-deoxyguanosine (8-OH-dG)を指標として検討した.8-OH-dGの尿中排泄量は高血糖導入後,有意に増加した(C群:325±34 ng/日vs. 888±347 ng/ 日p<0.05).腎組織における8-OH-dGの局在を免疫組織化学により検討したところ, 8-OH-dGの蓄積は主に糸球体上皮および内皮細胞に認められた.細胞内では主として細胞質に局在しており, mtDNAの酸化的障害の蓄積が推測された. mtDNA遺伝子の発現変化を検討したところ,ミトコンドリア呼吸鎖complexⅠ,Ⅲ構成分子であるNADH dehydrogenase 2 及びcytochrome bの遺伝子発現が糖尿病群において低下していた. 次に,培養糸球体上皮細胞を用いて, mtDNAの酸化的障害が細胞機能に与える影響について検討した.ミトコンドリア呼吸鎖酵素群complex I及びⅢの特異的阻害薬を用いたところ,細胞内に活性酸素産生の亢進を認めた(p<0.05).また,糸球体上皮細胞を活性酸素により処理したところ,ミトコンドリア膜電位の低下とapoptosisの誘導を認めた. 以上の結果より,糖尿病性腎症において,糸球体内での活性酸素産生の亢進と,その結果生じるミトコンドリア及びmtDNAの酸化的障害が,組織障害の進展に関与している事が明らかとなった.                       (平成12年10月27日受理)
著者名
八田 秀一
27
1
67-82
DOI
10.11482/KMJ27(1)067-082.2001.pdf

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