h_kaishi
Online edition:ISSN 2758-089X

欠失変異型タンパク質を用いたヒトKu抗原p70サブユニットの機能ドメイン解析

 Ku抗原はリウマチ性自己免疫疾患の患者血清が認識する自己抗原のひとつとして見いだされ,その後このKu抗原はp70サブユニットとp86サブユニットからなるヘテロタイマーとして核内に存在し,二本鎖DNAに生じた損傷を修復したり遺伝子再構成に必須な機能を果たしている核蛋白であることが明らかにされてきた.このKu抗原がヘテロタイマーを形成したりDNAに結合したり核に移行したりする役割を持った領域はp70サブユニットのaa 216-241 とaa 584-609, aa 483-609 の部位にあると推察されている.そこで. P 70サブユニットの欠失変異体を作成してゲルシフトアッセイ法や免疫共沈降法,免疫蛍光抗体法を使ってKu抗原の分子形成に必須な領域と機能発現に必須な領域を明らかにすることを目的として実験を行った. p 70サブユニットについて既に推察されていた3つの領域(aa 216-241 とaa 584-609, aa 483-609)のいずれを欠失しても変異型p70サブユニットはp86サブユニットと変異型ヘテロタイマーをつくり, DNA断片(77 bp)にも結合した.これに対し,これら3つとは異なる新たな領域(aa 392-466)を欠失させると変異型ヘテロタイマーもつくれないし, DNA断片へも結合できなくなった.次に,全長のp70サブユニットに存在する核局在化シグナルの部位を決めるためにSf9細胞内でp70サブユニットを発現させその局在性を調べたところ, aa 483-609 を欠失させた場合には変異型p70サブユニットは核に移行しなかったが, aa 584-609 を欠失させた場合には核が著しく変形したものの変異型p70サブユニットは核に移行した.これらの結果からKu抗原の分子形成とDNA結合能に必要なp70サブユニットの領域はaa 392-466 の部位であり, p 70サブユニットが核に移行するのに必要なシグナルはaa 483-583 にあることが分かった.さらに今回見出したこれら2つの領域(aa 392-466, aa 483-583)は夕ンパク質データベース中に相同なアミノ酸配列を持たないことから,Ku抗原は今までに報告されていない全く独自の配列を使ってヘテロタイマーを形成しDNAへ結合したり,独自の核移行シグナルを使って核へ移行している可能性が示された.(平成11年4月13日受理)
著者名
大森 謙太郎
25
1
35-46
DOI
10.11482/KMJ-J25(1)035

b_download