Online edition:ISSN 2758-089X
エストロゲン受容体陽性乳癌細胞における抗エストロゲン薬と mTOR 阻害薬エベロリムスの細胞増殖及び 癌幹細胞制御に対する効果
乳癌を含め多くの固形腫瘍において,癌幹細胞(CSC)が治療抵抗性や再発の原因となることが示唆されている.一方,エストロゲン感受性乳癌におけるCSC の制御機構に関する研究は少ない.そこで,エストロゲン受容体(ER)陽性乳癌細胞におけるエストロゲンや抗エストロゲン薬(抗E 薬)の細胞増殖やCSC 制御に与える影響について検討した.さらに,内分泌療法抵抗性乳癌に有効性が期待されているmTOR 阻害薬エベロリムス(EVE)と抗E 薬との併用効果も検討した.ER 陽性乳癌の実験モデルとして,エストロゲン高感受性(HS)のMCF-7,T-47D 乳癌細胞株,エストロゲン低感受性(LS)のKPL-1,KPL-3C 乳癌細胞株を用いた.薬剤は,17β-estradiol(E2),4-hydroxytamoxifen(4-OHT),fulvestrant(FUL),EVE を用い, 細胞増殖,細胞周期,アポトーシス,CSC 比率に与える影響を検討した.CSC の同定には,CD44/CD24/EpCAM 抗体を用いたフローサイトメトリー法及びmammosphere assay を用いた.ER-α,PgRおよびER 関連転写因子(GATA3等)の発現は免疫細胞化学的に検討した.結果として1)LS 細胞株では,PgR の発現が認められなかった.それ以外のER 関連因子は,HS 細胞株,LS 細胞株ともに高発現が認められた.2)HS 細胞株はLS 細胞株に比べ,E2による細胞増殖の促進効果,CSC 比率の増加効果が,ともにより顕著であった.3)HS 細胞株はLS 細胞株に比べ,抗E 薬による細胞増殖の抑制効果,CSC 比率の低下効果がより顕著であった.4)EVE と抗E 薬の併用は,LS 細胞株において相加的な細胞増殖抑制効果を示した.両薬の併用により,一部の細胞株ではCSC 比率の減少効果が増強された.以上の結果は,LS 乳癌において,抗E 薬の増殖抑制効果ばかりでなく,CSC 比率の低下効果も減弱していることを示唆している.抗E 薬抵抗性獲得のメカニズムの一つとして,CSC 制御機構の異常が関わっている可能性がある.また,一部の乳癌細胞株において,抗E 薬とEVE 併用の結果から,内分泌抵抗性乳癌におけるEVE の有用性が示唆された. (平成25年2月12日受理)
- 著者名
- 山下 哲正,他
- 巻
- 39
- 号
- 3
- 頁
- 65-79
- DOI
- 10.11482/2013/KMJ39(3)65-79.2013.pdf