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Online edition:ISSN 2758-089X

全脳虚血後の血液,脳および髄液の酸塩基平衡障害に対するtris-hydroxymethyl-aminomethaneの効果

雑種成犬36頭を用いて,12分間の全脳虚血を作成し,血流再開後にみられる動脈血,脳,髄液の酸塩基平衡障害,特にpH, PC02, HCO3-,乳酸値に及ぼすtris-hydroxymethyl-aminomethane(THAM)の効果について検討した.コントロール群,1回静脈内投与群,点滴静脈内投与群の3群に分けて血流再開120分後まで比較検討し,以下の結果を得た.1.動脈血では,全脳虚血によりpH, HCO3の低下, PCO2の上昇がみられたが,血流再開後点滴投与群では, pH, PC02 , HC03-とも他の2群に比べ早期に虚血前値まで回復した.2.脳では,全脳虚血により動脈血と同様,pHの低下,PC02の上昇を認めた.pHは点滴投与群において他群に比し早期に回復したが,血流再開後のPC02は各群に差がなかった.3.髄液においても,全脳虚血によりpH, HCO3-の低下,PC02の上昇がみられたが,血流再開後各群間で差を認めなかった.4.動脈血中の乳酸値は, THAMを投与した両群とも全脳虚血後のpeak値の低下を認めた.特に点滴投与群では血流再開後,全経過において低値を示した.しかし,髄液中の乳酸値は血流再開後,3群間に差を認めなかった.以上の結果より, THAMの静脈内投与は,アシドーシスを補正するために必要な量を静脈内に投与すれば,動脈血および脳内における酸塩基平衡障害(アシドーシス)に対して効果があるが,髄液の酸塩基平衡障害に対しては,効果のないことが分った.このことはTHAMの細胞内移行,特に脳血液関門移行について更なる検討が必要と思われた.(平成5年2月15日採用)
著者名
川端 洋一
19
1
25-35
DOI
10.11482/KMJ19(1)25-35.1993.pdf

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