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Online edition:ISSN 2758-089X

心筋内ミオグロビンに対するアルコール摂取の影響-マウス心筋における免疫組織学的検討-

アルコール性心筋症の発生機序については不明な点が多い.ミオグロビン(Mb)は心筋細胞内で主に酸素の運搬と貯蔵を行い,その代謝にとって重要な働きをしている.前回,剖検心を用いた研究で,長期間のアルコール摂取が心筋細胞のMbを障害する可能性があることを報告した.本研究では,心筋細胞のMbに対するアルコールの影響を検討するために,マウス心筋を用いて心筋細胞のMb染色性の変化を免疫組織学的に検索した.ICR系マウスを対象とし,以下のような急性および慢性投与実験を行った.急性投与実験では, 33%エタノール(EtOH)を一度に腹腔内投与し(0.015ml/g weight),その後数回継時的に心筋細胞のMb染色性の変化を検索し,あわせて血清および心筋組織内EtOH濃度の変化をガスクロマトグラフィーにより検討した.慢性投与実験では, 10% EtOHを長期間経口摂取させた後に,心筋細胞のMb染色性を非EtOH投与群と比較検討した.Mb染色用には抗マウスMb家兎血清(lgG)を使用した.光顕用のMb染色は,マウス心筋のホルマリン固定.パラフィン切片を用い,ペルオキシダーゼ酵素抗体間接法によって行った.また,電顕用のMb染色は超薄切片上でprotein-A金コロイド法によって行った.急性投与実験では,心筋組織内EtOH濃度が最高に達した時期(EtOH投与後1~2時間)に心筋細胞のMb染色性が低下し,それは心筋組織内EtOH濃度の下降と相関して回復した.電顕的にも同時期に,心筋細胞の金粒子沈着の数が明らかに減少した.慢性投与実験では, EtOH投与群と非投与群との間で心筋細胞のMb染色性に有意差がなかった.以上の結果より, EtOHまたはその代謝産物が心筋細胞のMb抗原性に一時的な影響を与えることが明らかになり,それはさらに何らかのMb代謝障害につながる可能性が示唆された.                              (平成2年10月11日採用)
著者名
鳥居 尚志
16
3.4
221-229
DOI
10.11482/KMJ-J16(3.4)221

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