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Online edition:ISSN 2758-089X

霊長類の顔面浅層に分布する動脈の系統発生学的解析 1.顔面筋の分化発育との関連性について

原猿類および下等な真猿類においては顔面筋の筋原基とされる Sphincter colli が成体でも残存し,未分化な顔面筋形態を呈することが知られている.このような形態を有する原猿類キツネザル科,ロリス科,真猿類マーモセット科の顔面筋及び顔面浅層に分布する動脈について系統発生学的に比較解析した.頬骨部の筋は,キツネザル科,ロリス科では側頭部より上唇に至る側頭唇筋であった.マーモセット科では側頭部に筋線維は認められず,頬骨を起始とし上唇に終わる頬骨筋が存在していた.著者はロリス科において側頭唇筋の深部に頬骨と結合する新たな筋束を観察した.この筋束は頬骨筋の原型と考えられている側頭唇筋が頬骨筋の形態を獲得する上で重要な役割をはたすと考えられる.頬骨部に分布する主な動脈は,キツネザル科,ロリス科では顔面横動脈であり,マーモセット科では頬骨顔面動脈であった.頬骨部の筋形態の推移に関連して,この部の動脈分布は著しく変化しており,顔面筋の分化発育程度は,顔面浅層の動脈分布形態に影響を及ぼす要因の一つと考えられる.(昭和63年2月27日採用)
著者名
田中 均
14
3
372-383
DOI
10.11482/KMJ-J14(3)372

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