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パラコート筋肉内投与マウスモデルにおける人工肺サーファクタント気道内投与の効果

 パラコート中毒に合併する「パラコート肺」は組織学的にはintra-alveolar fibrosis を呈する予後不良の肺病変であるが,これまでのところ有効な治療法は開発されていない.我々はパラコート肺の発生機序として,肺胞上皮細胞により血液中から能動的に取り込まれたパラコートによりサーファクタントを産生する肺胞上皮Ⅱ型細胞が傷害されることが原因ではないかとの仮説を立てた.この仮説を証明するために人工肺サーファクタント(サーファクテンR,田辺三菱製薬株式会社,大阪)を気管切開下に投与した後3日後にパラコートを投与して生命予後と残存健常肺容積に及ぼす影響,並びに肺組織学的検討を行った.マウスはC57BL/6J 系とBalb/C 系を用いた.最初に,両系におけるパラコート筋注時のLD50を検討すると,C57BL/6J 系では約28mg/kg,Balb/C 系では約9mg/kg であった.次に,人工肺サーファクタントを事前投与した後にパラコート筋注を行った場合の死亡率を検討したところ,C57BL/6J 系とBalb/C 系の両系ともに有意に改善した.特にBalb/C 系ではパラコート20mg/kg 筋注によって,サーファクタント非投与群ではパラコート投与後7日以内に36匹が全て死亡したが,サーファクタント投与群では26匹中18匹が2ヶ月後も元気に生存していた.死亡するマウスでは,CT 画像から算出した健常肺体積が経日的に減少していった.肺組織学的検討では,パラコート投与後7日以内に死亡したものは肺胞出血の所見を認めるとともに,時間経過とともに間質に細胞成分の増加を認めた.1ヶ月後に死亡したものでは,H &E 染色では細胞成分の上昇を認め,正常な肺胞構造はほとんどなく,蜂窩織肺と呼ばれる所見を認めた.Masson-Trichrome 染色では線維化も確認された.一方,人工肺サーファクタントを事前投与した場合には,7日以内死亡はもちろんそれ以降まで生存する場合にも肺組織に線維化を認めなかった.今回の結果から,人工肺サーファクタント事前投与によりパラコート肺の出現が抑制されるとともに生存率も改善されることが明らかになった.今後は,人工肺サーファクタント事前投与によりパラコート肺が抑制される機序の解明と臨床的応用についての検討が必要である.(平成22年10月26日受理)
著者名
井上 貴博,鈴木 幸一郎
36
4
327-337

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