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Online edition:ISSN 2758-089X

百日咳の感染病理 1.宿主における菌の運命と病理学的反応について

経鼻感染法と脳内接種法を用いて,百日咳菌をマウスに感染せしめ,菌の運命および宿主の反応を経時的に観察した.感染初期には,両感染法とも同様の所見がみられた.つまり,百日咳菌は繊毛上皮細胞表面に固着し,この部で食菌作用を受けずに増殖し,上皮細胞内および上皮細胞下組織に侵入しない.このことは,百日咳菌の繊毛上皮細胞親和性と上皮への非侵入性を裏づけるものと考えられるが,逆に宿主の立場からいえば,脳室の上衣細胞と細気管支上皮細胞の類似性を示唆するものかもしれない.感染後期には,マウスは異なる反応を示した.脳内感染においては,リンパ球増多症はみられず,ほとんどが一週間以内に死亡した.経鼻感染では,死亡例はみられず,リンパ球増多症,胞隔炎,長期にわたる細気管支周囲リンパ球浸潤などがみられた.さらに興味深い点は,細気管支内で増殖していた菌の減少傾向の時期と細気管支周囲のリンパ球浸潤の出現時期とが,時間的に一致することである.百日咳菌が細気管支上皮細胞表面から肺胞腔内に分離移行する機序には,何らかの免疫生物学的な面が考えられる.
著者名
広川 満良
8
2
108-117
DOI
10.11482/KMJ-J8(2)108

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