h_kaishi
Online edition:ISSN 2758-089X

左室収縮時間を指標とした亜硝酸アミル負荷が冠動脈疾患のストレステストとして用いられる可能性 -臨床的・実験的研究-

① 冠動脈疾患(CAD)の精査の目的で入院した77例の患者に,左室収縮時間(STI)を指標として亜硝酸アミル(AN)負荷を行ない,これがCADの冠予備能を把握する手段として臨床的に用い得る可能性について研究を遂行した. ② 臨床的研究では, AN負荷によるSTIの変化率とCADの重症度との関連を検討した. ③ AN負荷時,対照群(25例)ではET/PEPは著明に増加(2.91→4.01)した.一方CAD群(52例)では低値(2.52→2.96)にとどまり,両群間の差は推計学的に有意(p<0.001)であった.④ CAD群におけるET/PEPの変化率(⊿ET/PEP)は,多枝病変群が一枝病変群に比し低値であった. ⑤ ⊿ET/PEPは,一枝病変群では安静時駆出率と正相関(r=+0.53)を示したが,多枝病変群では相関を示さず,駆出率が正常でも⊿ET/PEPが低値にとどまった例が多く,心ポンプ機能以外の因子の関与も考えられた. ⑥ 心カテーテル検査で,対照群ではAN負荷により dp/dt・maxが著明に増加し,CAD群との間に有意差がみられた. ⑦ 実験的研究では,冠狭窄犬(25頭)を作成し, ANの冠血流量および局所心筋収縮機能に与える影響について検討した. ⑧ 冠動脈非狭窄時, AN負荷により冠血流量および心筋短縮率は著明に増加した. ⑨ 一方冠動脈狭窄時には,冠血流量および心筋短縮率はAN負荷後早期に軽度増加したのみで,両者ともその後負荷前より低値を示した.この変化は冠狭窄の程度を増すに従って明らかになった. ⑩ これらの結果から, AN負荷による⊿ET/PEPの異常反応に関与する因子として, a)心ポンプ機能の良否 b)冠狭窄の病変数と程度の両者が考えられた. ⑪ AN負荷試験によるCAD検出率は, JET/PEPの増しが30%未満を基準とすると,感受性92%,特異性84%,陽性適中率92%であり,また本法の再現性も良好(r=+0.93)であった. ⑫ 以上の成績から,STIを指標とした AN負荷試験がCADの冠・心予備能を把握する一手段として簡単かつ安全に臨床に用いうる可能性が示された.
著者名
三竹 啓敏
8
2
140-157
DOI
10.11482/KMJ-J8(2)140

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