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シナプスマーカーVGLUT1, VGAT を用いた嗅球神経回路の新たな形態学的解析

嗅覚の一次中枢である嗅球の投射ニューロン(僧帽細胞,房飾細胞)は,その樹状突起上で樹状突起間シナプスを形成したのちに,高次の脳中枢に情報を伝達する.従って,僧帽細胞の突起上のシナプスの分布を明らかにすることは,匂い情報調節を解析する上で必須である.従来,シナプス結合を形態学的に同定するものは高解像度な電子顕微鏡による解析であった.しかし,電子顕微鏡では,観察できる領域は限られ,広範囲の解析を行うのは困難であり,僧帽細胞を厳密に同定することもできない.Vesicular glutamate transporter(VGLUT1)やvesicular GABA transporter(VGAT)などのシナプスマーカーの有用性が最近多くの脳領域で報告されており,これらのマーカーにより電子顕微鏡による解析以上に,嗅球でも信頼性の高いシナプスの定量ができるかもしれない.本研究では,新たなマーカーによる,樹状突起間シナプスの同定の有用性をマウスの嗅球で検討した.まず,嗅球を抗VGLUT1抗体,抗VGAT 抗体で単染色し,電子顕微鏡で観察すると,非対称性シナプス,対称性シナプスのシナプス終末がそれぞれ標識されることが確認できた.次に単一の僧帽細胞をウイルスベクター注入により標識し,抗VGLUT1抗体,抗VGAT 抗体で多重染色して, 僧帽細胞とVGLUT1,VGAT との共存部位を共焦点レーザー顕微鏡で観察した.次いで同部位を電子顕微鏡で同定し,微細構造を解析した.その結果,VGLUT1陽性部位のうち82%に非対称性シナプス,VGAT 陽性部位のうち79% に対称性シナプスが電子顕微鏡で同定でき,VGLUT1,VGAT が,嗅球のシナプスの質的な解析や定量のためのマーカーとして信頼できると結論づけた.また,抗VGLUT1抗体,抗VGAT 抗体で二重染色したものを,高解像度でモンタージュ撮影すると,VGLUT1が外網状層を中心,VGAT が糸球体層に多く分布し,外網状層に中等度分布するなど,新たな知見が得られた.これらの結果は,VGLUT1とVGAT が,シナプスの同定や広範囲の脳領域のシナプスの分布を解析するために有用なマーカーであるということを示している.doi:10.11482/KMJ-J42(2)127 (平成28年8月23日受理)
著者名
松野 岳志,他
42
2
127-142
掲載日
2016.10.11

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