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Online edition:ISSN 2758-089X

胃底腺萎縮と胃分泌に及ぼす加齢の影響 ―胃潰瘍と十二指腸潰瘍を比較して―

胃潰瘍と十二指腸潰瘍の病態生理学的な特徴を明らかにするために,加齢による胃底腺領域の縮小化と胃液分泌の低下を検討した. 対象は胃潰瘍45例と十二指腸潰瘍36例,計81例であり,各々を年齢により4グループに分けて検索した.胃底腺領域の検討は内視鏡下でコンゴーレッドの黒変部として観察が可能な内視鏡的コンゴーレッド法を用いて行なった.胃液分泌は基礎分泌およびテトラガストリン刺激後分泌胃液の各分画について,胃液分泌量,酸分泌量,alkali labile pepsin (ALP)分泌量, alkali stable pepsin (ASP)分泌量および総ペプシン分泌量を測定して分析した.胃底腺領域は若年胃潰瘍患者の場合でも軽度の縮小がみられたが,加齢によりさらに縮小が進んだ.しかしながら十二指腸潰瘍患者の場合は高齢患者でもなお胃底腺領域の縮小は軽度であった.胃潰瘍患者において,胃液分泌量,酸分泌量およびALP分泌量は加齢により減少したが,十二指腸潰瘍の場合はそれらの減少は軽度であった. ASP分泌量は,高齢者胃潰瘍患者において軽度の低下を示したが,十二指腸漬癌患者では低下がみられなかった.その結果,総ペプシン分泌は胃潰瘍患者では加齢により低下を示したが,十二指腸潰瘍患者の場合は低下がみられなかった.今回の成績からみると,胃潰瘍の一次的病因はむしろ胃粘膜防禦因子の破綻にあり,胃分泌の低下は加齢の影響によると考えられた.また反対に十二指腸潰瘍の場合は加齢の影響とは無関係に胃液分泌が亢進していることが,第一次的な病因であると考えられた.いわゆる消化性潰瘍症を治療する場合これらの病態生理学的な特徴を念頭にいれて行なうことが肝要であると考える.
著者名
山本 俊, 他
7
1
38-46
DOI
10.11482/KMJ-J7(1)38

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