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インフルエンザウイルスの生き延び戦略にヘムアグルチニン (HA) の糖鎖はいかなる意義を持つか?

 ヒトのA 型インフルエンザH3N2亜型(いわゆる香港型)ウイルスは,1968年に人間界に出現以来,今日まで流行を繰り返してきた.その間,ヘムアグルチニン(HA)の抗原性が徐々に変化すると共に,HA 頭部の糖鎖数も徐々に増加し,出現当時は2本であったのが今世紀初めには7本になっている.HA 頭部にはウイルスの主要抗原部があるため,糖鎖数が増加することによって抗原部が覆い隠されて,免疫系の攻撃から逃れやすくなるのではないかと推測されてきた.本研究では,この可能性を検証するため,2001年に分離されたインフルエンザA/Okayama/6/01(H3N2) ウイルスのHA を起点として,遺伝子工学的に糖鎖結合モチーフを順次(時代を遡って)除いたHA を作製し,リバースジェネティクスによりこれらのHA を組み込んだウイルスを作製して,実験を行った.オリジナルのHA を持つウイルス(H3-0)および糖鎖結合部を1~3個減じたHA を持つウイルス(H3-1, H3-2, H3-3)を同じ感染価に揃えてそれぞれマウスに経鼻接種し,1カ月間観察後に採血して,血清中の中和抗体価を調べた.それぞれのウイルス接種により産生された抗体は,接種に用いたウイルスに対して高い中和抗体価(中央値1:4621~1:6132)を示した.糖鎖数の異なるウイルスに対する中和活性,即ち交叉反応性を調べると,H3-1とH3-2の間では互いに交叉して抗原性の違いが見られなかったが,H3-0とH3-1間およびH3-2とH3-3間では抗原性の違いがはっきりと認められた.これらの結果からインフルエンザウイルスのHA 頭部の糖鎖付加は宿主の免疫機能からの逃避に役立つことが示されたが,同時にまた,付加のみならず糖鎖の減少もまた抗体の中和活性を減ずること,糖鎖の付加部位によってその効果は大きく異なることも明らかになった.本研究によって得られた知見を基に,ニューヨーク市における過去のインフルエンザ流行パターンについても解析を行った.(平成21年10月5日受理)
著者名
徳永 博俊
35
4
319-328

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