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遺伝子交雑による新型インフルエンザウイルスのできやすさについて

 A 型インフルエンザウイルスはヒトのみならず多くの鳥類や哺乳類を宿主として世界中に分布している.その抗原性はウイルス粒子上の2種類のスパイク:ヘムアグルチニン(HA)とノイラミニダーゼ(NA)により決定されるが,それぞれの宿主動物には様々な抗原性のHA とNA を持った固有のウイルスが存在する.また,インフルエンザウイルスのゲノムは分節化されたRNA から成っているため,異なる遺伝子を持つウイルスが同一細胞に感染すると,そこで遺伝子RNA の交雑が起きて,容易に新しい遺伝子組合せのウイルスができると考えられている.それゆえ遺伝子交雑は新型インフルエンザ出現の最も重要な経路と見なされている.本研究ではリバースジェネティクスの手法を用いて,新しい遺伝子組合せを持つウイルスの産生効率を調べ,遺伝子交雑による新型ウイルスのできやすさについて検討した.その結果,インフルエンザウイルスWSN 株(H1N1亜型)のHA をH3亜型に入れ換えると子孫ウイルスの産生効率は約1/10に,HA に加えNA も入れ換えると約1/100に低下することが見出された.産生されたウイルスを電子顕微鏡で観察すると,オリジナルのWSN 株では大きさの均一な球形の粒子が観察されたが,HA を入れ換えたウイルスでは粒子径の増加が,HA とNA 両方入れ換えたウイルスでは径の増加に加え不定形粒子が多数観察され,HA とNA の入れ換えがウイルス粒子形成に影響を及ぼすことが示唆された.遺伝子交雑による新型ウイルスの出現には抗原性を担うHA とNA(少なくともHA)の入れ換えは必須であるが,それは必ずしも容易なことではなく,入れ換えによりウイルス産生効率が著しく低下する可能性があることが明らかとなった.そのような新型ウイルスでも感染と増殖を何回も繰り返すうちに,産生効率の高いウイルスに変異すれば,やがてパンデミックを起こすにいたると考えられるが,それまで従来のウイルスとの競争に打ち勝って生き延びるためには何らかの選択圧(従来のウイルスが感染増殖できない環境など)が必要であることを,本研究の成績は示唆している.(平成21年7月31日受理)
著者名
徳永 博俊
35
3
233-241

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