h_kaishi
Online edition:ISSN 2758-089X

乳癌細胞に対するHER1/HER2チロシン燐酸化阻害剤LAPATINIBと抗エストロゲン剤FULVESTRANTの相加的抗腫瘍効果に関する研究

目的:増殖因子シグナル伝達の活性化が,エストロゲン受容体(ER)のエストロゲン非依存的な活性化を引き起こし,乳癌のホルモン療法抵抗性の一因になっていることが,最近の基礎研究により示されている.また,増殖因子シグナル伝達の阻害は,ホルモン療法抵抗性の克服に役立つことが示唆されている.この仮説を検証するために,3種類の乳癌細胞株を用いHER1/HERチロシン燐酸化阻害剤lapatinib(Lap)と抗エストロゲン剤fulvestrant(Ful)併用による抗腫瘍効果を検討した.さらに,その作用メカニズムも検討した.方法:3種類の乳癌細胞株は,すべて当教室で樹立した.KPL-1及びKPL-3C細胞株は,ER陽性であるがHER1/HER2の発現は弱い.KPL-4細胞株は,ER陰性であるがHER2を過剰発現している.細胞増殖はコールターカウンターにより細胞数を計測した.細胞周期の測定はpropidium iodide染色後にフローサイトメトリー(FACS)を用いた.アポトーシス測定はterminal deoxynucleotidyl transferase-mediated dUTP nick-end labeling(TUNEL)法を用いた.細胞周期やアポトーシス誘導に関わる因子の蛋白発現レベルは,ウエスタンブロット法を用い検討した. 結果:3種類の乳癌細胞株の中で,KPL-4細胞株がLapに対し最も感受性が高かった(50% 増殖阻止濃度[IC50],1.5μM). LapはKPL-4細胞のアポトーシスを誘導した(FACS におけるsub-G1分画の増加やTUNEL陽性細胞の増加).KPL-1及びKPL-3C細胞株ではLapの抗腫瘍効果は弱かった(IC50は各々8.1μM and5.0μM).LapとFulの併用は,アポトーシスの増加を伴って,相加的な抗腫瘍効果を示した.LapはKPL-4細胞において,抗アポトーシス因子Bcl-2やsurvivinの蛋白発現を低下させたが,KPL-1及びKPL-3C細胞では有意の変化は認めなかった.一方,LapとFulの併用により,KPL-1及びKPL-3C細胞においてBcl-2やsurvivinの低下が認められた.さらに,Lap単独やFulとの併用により,これらの3種類の細胞株で,細胞周期関連因子p21やp27の増加が認められた. 結語:これらの研究結果から,LapはHER2を過剰発現する乳癌に対し強力な抗腫瘍効果が期待でき,さらに,LapとFulとの併用は,ER陽性乳癌に対し,相加的な抗腫瘍効果を示すことが示唆された. (平成19年4月18日受理)
著者名
野村長久
33
4
277-287
DOI
10.11482/2007/KMJ33(4)277-287.2007.pdf

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