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Online edition:ISSN 2758-089X

変異caveolin-3 (P104L) トランスジェニックマウス骨格筋における遺伝子発現:アポトーシスシグナルの動向

 caveolinは細胞膜のフラスコ状陥入構造であるcaveolaを構成する膜貫通蛋白であり,そのうちcaveolin-3は主に骨格筋に発現するisoformである. caveolin-3遺伝子異常による常染色体優性肢帯型筋ジストロフィー(limb-girdle muscular dystrophy : LGMDIC)の分子発症機構の解明を目的として Sunadaらはヒトcaveolin-3遺伝子変異(Pro 104 Leuミスセンス変異)を導入したトランスジェニック(Tg)マウスを作製した. Tgマウスは病理組織学的に明らかなミオパチーを発症しており,モデルマウスとして有用である.Tgマウス骨格筋では変異caveolin-3 mRNAが過剰に発現する一方で,筋形質膜に局在するcaveolin-3蛋白の欠損が確認されたことから caveolin-3遺伝子変異がdominant negative効果を持つと考えられる.また,従来caveolin-3はnNOSと結合し,その活性を抑制させることが知られているが, Tgマウス骨格筋ではnNOS活性が増加し,筋変性の病態にnNOS活性上昇が関与することが考えられる.このTgマウスにおける筋変性の分子機構解明をすすめるため, DNAmembranearrayおよびgene chipを用いて発現プロファイル解析により病態関連遺伝子のスクリーニングを行った.さらにスクリーニングにより得られた候補遺伝子のうちアポトーシス関連の遺伝子発現をNorthern blot法により解析した,その結果,病態関連遺伝子のスクリーニングで,多くの遺伝子の発現上昇および低下が確認された.また Northern blot解析により,アポトーシス関連遺伝子としてCOXWaLおよびCIDE-A,またアポトーシス抑制遺伝子としてDad-7, Ribophorin IおよびRibophorin Eの発現上昇がみられた.アポトーシス関連遺伝子とアポトーシス抑制遺伝子の発現上昇がみられたことは,骨格筋細胞にアポトーシスを生じるメカニズムが働く一方で,アポトーシスを抑制し筋細胞死を防御するメカニズムがともに働いていることが示唆される.このことから caveolin-3遺伝子変異を導入したTgマウスでは,筋細胞内のアポトーシスシグナル伝達経路の変化が,筋変性の病態に関与している可能性が考えられる. (平成15年10月25日受理)
著者名
山田 治来
29
3
241-248
DOI
10.11482/KMJ29(3)241-248.2003.pdf

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