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Online edition:ISSN 2758-089X

透析患者に発症したアシクロビル脳症の1例

患者は75歳女性で,慢性腎不全に対して近医で透析を受けていた.右足底の帯状疱疹に対し近医皮膚科よりアシクロビル2,400mg/日が投与された.その後しゃべりにくさとふらつき,異常な言動が出現した.近医よりアシクロビル内服中止を指示され,内服を中止したが症状の改善がないため当院へ救急搬送され精査目的で入院した.入院時意識レベルはJCS20~30.構音障害を認め,顔面,口唇,舌,四肢にジスキネジア様の不随意運動を認めた.クレアチニンクリアランスは5.46 ml/min/1.73m2と著明に低下していた.髄液細胞数は正常であった.頭部MRI で左前頭葉の急性期脳梗塞と左頭頂葉の萎縮を認めたが症状と合致しないこと,髄液細胞数が正常であること,アシクロビル投与後に症状が出現していることから,アシクロビル脳症を疑った.透析を継続し,症状は改善を認めた.アシクロビルの血中濃度は,入院日が高値で,当院での第1回目の透析後に速やかに低下していた.アシクロビル脳症は,抗ヘルペスウイルス薬のアシクロビル,塩酸バラシクロビルの投与により誘発される精神神経症状であり,意識障害,振戦,ミオクローヌス,錯乱,混迷,傾眠,幻覚,昏睡など多彩な症状が出現する.本症例のアシクロビル投与量は,添付文書に記載されているクレアチニンクリアランスを考慮した投与量よりも過剰であったことが,脳症発症の一因と思われた.ヘルペスウイルス感染症に対してアシクロビルを投与後に精神神経症状が出現した場合,ウイルス性脳炎とアシクロビル脳症とを早急に鑑別することが重要で,早期に髄液検査や頭部CT,MRI 等を施行すべきと考える.また,透析患者にアシクロビルを投与する場合は投与量に十分な注意を払い,脳症が出現する可能性も念頭に置き,慎重な経過観察が重要と考える.doi:10.11482/KMJ-J40(1)37 (平成25年11月25日受理)
著者名
山田 治来,他
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DOI
10.11482/KMJ-J40(1)37

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