h_kaishi
Online edition:ISSN 2758-089X

末梢神経の変性および再生過程における低親和性神経成長因子受容体(lOW affinity nerve growth factor receptor)の発現

末梢神経障害の際,Schwann細胞が低親和性神経成長因子受容体(nerve growth factor receptor : NGFR)を発現する契機を検索するために,ラットの坐骨神経に切断障害および圧迫挫滅障害を加え,その末梢部で凍結標本を作成し,免疫組織化学的に低親和性NGFRとリン酸化ニューロフィラメント(phosphorylated neurofilament : P-NF),macrophageを同定し,エポン包埋ブロックの光顕ならびに電顕的観察と比較した.切断障害では,2日目免疫組織化学的にはコントロールと同様, NGFRは染色されず,P-NFが軸索に一致して染色された.電顕的には軸索内細胞骨格が崩壊し,一部の髄鞘の層板解離が始まった.3日目NGFRが一部で陽性となり, P-NFで染色されない軸索が認められた.以後, NGFRは次第に染色性を増し, P-NFの染色性は低下した.電顕的にはSchwann細胞の中で髄鞘の崩壊が進行し,吸収消化されていった. macrophageは5日目に初めて免疫組織化学的に同定された.圧迫挫滅障害では,7日目免疫組織化学的にNGFRの染色性が低下し, P-NFの染色性が上昇した.同日,電顕的に軸索のsproutingやSchwann細胞が再生軸索を取り巻き,髄鞘再生を開始しているのが認められた.低親和性NGFR発現の契機は,従来, Schwann細胞が軸索との接触を失うこととされていたが,今回の結果では低親和性NGFRはSchwann細胞の崩壊軸索の吸収,髄鞘の消化開始を契機として発現され,髄鞘再生開始で消失した.低親和性NGFRは, Schwann細胞から軸索への神経成長因子の受け渡しに関与していることが示唆され, Waller変性におけるSchwann細胞の積極的役割が注目された.(平成5年8月16日採用)
著者名
森定 ゆみ
19
3
155-167
DOI
10.11482/KMJ19(3)155-167.1993

b_download