h_kaishi
Online edition:ISSN 2758-089X

t_toukou

実験的表皮嚢腫に関する研究

外傷性表皮嚢腫の研究は,以前より行われているが,単離状の個々の表皮細胞が皮下組織に迷入した状態を設定した研究は行われていない.今回,ラットの背部皮膚真皮内に遊離表皮細胞の自家移植を行い,個々の表皮細胞の動態および運命を画像解析システムにて検討し,さらに,移植表皮細胞の増殖と分化を電子顕微鏡的に観察した.(実験方法)実験動物は, F344系雄ラット(生後5週,体重100 g)を使用した.ラットの両側耳介を切離し,軟骨除去後トリプシン処理して, DNase-I溶液下に表皮細胞浮遊液を作製した.そしてウシ胎児血清添加MEM培地を加えて濾過した後, PBS溶液で洗浄して表皮細胞懸濁液を作製し,それをラットの背部皮膚真皮内に注射し,経時的に生検を施行した.生検した材料は二分割し,一方をH-E染色切片としてハイグレード画像解析装置による画像解析を行い,他方は超薄切片を作製して電顕的に観察した.(光学顕微鏡および電子顕微鏡的所見)注入後6時間では,遊離表皮細胞が真皮下層から筋層にかけて散在していた.12時間目には隣接する表皮細胞間にデスモゾームの形成が認められた.1日目には表皮細胞の増殖によりネストを形成した.2日目には表皮様構築が更に進展し,最下層の基底細胞様表皮細胞には,基底板の形成が認められた.3日目には表皮様構築の中心部に角質細胞層の形成が見られた.5日目には最下層の表皮細胞に完全な基底板が形成され, anchoring fibrilが観察された.7日目には,典型的な表皮嚢腫構造を呈した.基底細胞層の表皮細胞は扁平化が進み,基底板の不整が目立つようになった.嚢腫の周囲では多数の線維芽細胞による被包化が強まった.14日目には表皮細胞はすべて角質化し,角化嚢腫の周囲に異物巨細胞や組織球が出現した.そして21日目には角化嚢腫は消失し,もはや真皮内には観察されなかった.(光学顕微鏡的レベルでの画像解析)画像解析にて表皮嚢腫の表皮細胞と耳介正常皮膚の表皮細胞との比較を行った.そして,以下の結果を得た.(1)表皮嚢腫の表皮細胞は正常皮膚の表皮細胞に比べ,個々の核の平均面積は有意に小さい値を示した.(2)嚢腫壁の表皮細胞は,正常表皮細胞よりも有意に扁平化の傾向を示した.この実験的嚢腫の消失は,表皮様構築が完成して嚢腫を形成した後に,何らかの理由によって増殖能をもった表皮細胞がその分裂機能を停止し,表皮細胞の供給が途絶えてしまうことによると考えられた.               (平成3年9月21日採用)
著者名
梶川 浩
17
3
269-288
DOI
10.11482/KMJ17(3)269-288.1991.pdf

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