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Online edition:ISSN 2758-089X

心筋内ミオグロビン代謝に対するアルコール摂取の影響 I.剖検心における免疫組織学的検討

アルコール性心筋症の発生機序についてはいまだ不明な点が多い.ミオグロビン(Mb)は,筋細胞中で主に酸素の運搬と貯蔵を行い,その代謝にとって重要な役割を演じるので,アルコール摂取が心筋細胞のMb代謝に与える影響について,剖検心を用いて免疫組織学的に検討することを目的に本研究を行った.対象は剖検例から3群,すなわち,I群:10年以上の習慣的な飲酒歴のある28例,Ⅱ群:飲酒歴のない28例,Ⅲ群:疾病対照(特発性心筋症,心筋炎,進行性筋ヂストロフィー症, Kugelberg-Welander病)9例を選んだ.検索方法は,左心房・心室壁筋のホルマリン固定・パラフィン切片を用い,抗ヒトMb家兎血清fab'分画によりペルオキシダーゼ酵素抗体法(直接法)でMb染色を行い,あわせて心筋細胞の変性と間質の線維化との関連を検討するために, alcian blue-PAS とazan染色を行った.I群では,Ⅱ群に比べて.心筋細胞のMb染色性が明らかに低下していた.特に大酒家(10年以上にわたるエタノール換算量125 ml /日)では,その傾向が顕著であった.Ⅲ群もMb染色性が低下していたが,Ⅱ群との間に統計的な有意差はなかった.各症例における心筋の部位別染色性は,I群において左室壁の心内膜側半でMb染色性の低下を示すものが,その心外膜側半や心房壁におけるものよりも有意に多かった.心筋細胞の変性と間質の線維化の頻度は,3群間で有意の差がなかった.以上の結果より,長期間のアルコール摂取によって心筋細胞のMb代謝に何らかの障害が起こり,それがアルコール性心筋症の発生に関与する可能性が示唆された.(平成元年5月24日採用)
著者名
鳥居 尚志
15
3
415-421
DOI
10.11482/KMJ-J15(3)415

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