Online edition:ISSN 2758-089X
尿細胞診と尿路腫瘍(第2報)
尿細胞診の検査を1974年11月から1977年10月までの3年間に川崎医科大学泌尿器科を受診した190例の患者に実施した.尿路性器悪性腫瘍患者77例は腎細胞癌4例,腎盂尿管癌3例,原発性膀胱癌57例,転移性膀胱癌2例および前立腺癌11例である.一方,非悪性腫瘍性尿路性器疾患は113例である.尿細胞診の分類はPapanicolaou class I,IIをnegative, class III をdoubtful, class IV, Vをpositiveとして判定した.尿細胞診を臨床的病理組織学的事項と対比しその意義を検討した結果,腎細胞癌4例は全てnegative,腎盂尿管膀胱の移行上皮系腫瘍,すなわち尿路上皮腫瘍60例はnegative18例(30.0%),doubtfu1 4例(7.3%),positive 38例(67.3%),転移性膀胱癌2例(いずれも子宮頸癌の浸潤例)はnegative l例, positive l例,前立腺癌negative 5例,doubtful 1 例, positive 5例であった.一方,非悪性腫瘍性疾患113例はfalse positive3例(2.7%),その内訳は腎尿管結石兼感染性水腎症,前立腺肥大症および尿道狭窄の各1例, doubtful 10例(8.8%)であった.膀胱腫瘍の数による尿細胞診陽性率は多発性腫瘍が単発性のものよりも有意の差(Ρ<0.05)で高かった. Brodersの分類による尿路上皮腫瘍45例の悪性度と尿細胞診との間には, low gradeはlow positive, high gradeはhigh positive cytologyの関係が認められた.すなわち,その陽性率はgrade 1 28.6%,grade 2 56.5%,grade 3,4 93.3%であった.これらのことより,膀胱鏡あるいはレ線検査で比較的発見し易いlow grade の腫瘍には細胞診は余り有用ではないが,膀胱鏡あるいは尿路レ線上発見困難なcarcinoma in situや炎症,hyperplasia,leucoplakiaなどと鑑別困難な非乳頭状腫瘍はhigh gradeで細胞診で高率にpositiveとなるので極めて有用な検査法といえる.一般検査として自尿による尿細胞診の検査は少なくとも3回以上の反復検査が必要であることを強調した.すなわち,尿路上皮腫瘍62例は3回以上の検査が行なわれており,その尿細胞診陽性率は64.5%であったのに対し2回以下の45例では44.9%の陽性率で両者の間には有意差(Ρ<0.05)が認められた.なお,3回施行例と4回以上例ではほとんど差がみられなかった.膀胱腫瘍の手術および補助療法(抗癌剤膀胱内注入療法あるいは放射線療法)の術後の尿細胞診は,細胞診positiveで膀胱鏡的に腫瘍negativeの症例が7例(15.2%),その逆の症例は1例であった.これら不一致症例は術後3~4ヵ月目にはほぼ消失した.
- 著者名
- 田中 啓幹, 他
- 巻
- 3
- 号
- 3.4
- 頁
- 129-136
- DOI
- 10.11482/KMJ-J3(3.4)129