h_kaishi
Online edition:ISSN 2758-089X

誘因なく腹腔内出血を来した下行結腸壁内血腫の1例

結腸壁内血腫は稀な疾患で,全消化管壁内血腫の4.4%とされている.消化管壁内血腫の原因は外傷や抗血栓療法関連が多く,特発性は全体の1.1%とされている.医学中央雑誌では,結腸壁内血腫の本邦報告例は29例で,そのうち腹腔内出血と関連した報告は3例のみである.誘因なく腹腔内出血を来した下行結腸壁内血腫の1例を報告する.症例は70歳台男性,X 月X 日に明らかな誘因なく左側腹部痛を自覚した.様子をみたが改善なく翌日近医受診し,CT で下行結腸腫瘤と腹水貯留を認め当院搬送された.当院の腹部超音波検査では,下行結腸内腔を圧排する粘膜下腫瘍形態の境界明瞭な約70mm の腫瘤を認め,腸管壁と不可分であった.腫瘤内部は無エコー~高エコーが混在しており,color Doppler imaging で血流信号は認められず,腹腔内腫瘍の腸管浸潤を疑った.また,汎発性腹膜炎と腹腔内出血を認めた.造影CT で,下行結腸腸管壁に連続した筋肉よりもわずかに低吸収の造影効果のない腫瘤と,腫瘤近傍に紡錘状の動脈瘤が認められた.腹腔内出血と結腸壁内血腫の疑いの診断で,同日緊急外科的治療が行われた.術中所見は,腹腔内に鮮紅色の血性腹水が貯留し,下行結腸の壁内血腫漿膜側が穿破し,同部から出血していた.手術標本では,血腫は粘膜下層から漿膜下層に認められ,主体は漿膜下層であった.明らかな動脈硬化性変化は認められなかった.結腸壁内血腫は粘膜下腫瘍形態を呈し,保存的加療が原則とされるが,腸閉塞,腹腔内出血,出血性ショックを伴うこともあり,その場合は外科的治療が選択される.診断は造影CT が有用である.腹部超音波所見では,粘膜下腫瘍形態で,腫瘤内に血流信号が認められないことが鑑別の一助となる可能性がある.本症例では,病歴や画像所見および組織学的所見から,病態背景に分節性動脈中膜融解が存在していた可能性がある.
著者名
中藤 流以, 他
47
83-94
DOI
10.11482/KMJ-J202147083
掲載日
2021.8.6

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