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思春期において不登校を呈した7例のアスペルガー障害の臨床的特徴

 従来の乳幼児検診では問題を指摘されないままに成長したアスペルガー障害の子どもが思春期に至り,初めて不適応行動を呈する例がある.本研究では,未診断のまま成長し不登校を呈した思春期の症例についてその原因や対応について検討した.  対象は,2005年6月から2006年1月までに,川崎医科大学附属病院心療科外来を,不登校を主訴に受診した15歳から17歳の患者23名のうち,米国精神医学会による「精神疾患の分類と診断の手引き」(DSM-Ⅳ-TR)によってアスペルガー障害と診断された7例(男性2例,女性5例)である.全例に対して発達歴を患者および母親より聴取した.患者に対しては児童用自閉症スペクトラム指数(Autism-Spectrum Quotient:AQ)を,家族に対しては高機能自閉症スペクトラム・スクリーニング質問用紙(High-Functioning Autism Spectrum Screening Questionnaire:ASSQ-R)を施行した.また臨床心理士が WISC-Ⅲを施行した.いずれも充分な説明と同意のもとに行った.  問診にて, 1)全例に不登校の明確な誘因を認めた. 2)全例に幼児期の社会性の障害と想像力の障害を認めた. 3)全例に1歳半検診,3歳児検診では問題を指摘されていなかった. 4)全例に他者との違和感を認めた. 5)独特の思考を6例に認めた. 6)全例にいじめられ体験を認めた. 7)タイムスリップ現象を6例に認めた. 8)感覚過敏は過去には2例,現在には5例で認めた.  心理検査にて, 1)児童用AQでは,20点以上の高得点(自閉症圏)が6例であった. 2)ASSQ-Rでは,19点以下の低得点(問題のない群)が6例であった. 3)WISC-Ⅲでは,全例においてIQ80以上(平均IQ97)であった.  不登校の要因と対応として,以下のように考えた. 1)児童用AQが高く,ASSQ-Rが低いという結果は,親が子どもの問題を認識していないということを示しており,また前思春期に生じる他者との違和感は,患者の孤立感を強め,対人関係での緊張感を強めている可能性がある.親子の認識のずれには親の障害の理解が,他者との違和感については,アスペルガー障害の説明で,自身の長所と短所を理解するとともに,自身と他者との違いを理解することが大切となる. 2)独特の思考は思春期までに形成されやすく,学年が上がり対人関係が複雑になることにより,破綻を来たした可能性がある.これに対しては,それを否定するのではなく,体験を通してより適切な思考にいたることが大切となる. 3)いじめられた記憶が,タイムスリップ現象として再体験され,対人関係での恐怖感を強めている可能性があり,周囲の大人がタイムスリップ現象を理解することが大切となる. 4)感覚過敏が,学校という刺激に満ちた空間の中で,患者を苦しめている可能性があり,まずは刺激を少なくするという環境調整を,時には薬物療法を検討する必要がある. (平成18年4月5日受理)
著者名
桐山 正成
32
3
111-125

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