h_kaishi
Online edition:ISSN 2758-089X

「抑うつ状態」回復後の精神症状に関する比較研究 ―特に気分障害と適応障害について―

【目的】  時代の変化とともに,抑うつ状態の病像も変化し,臨床的には,従来の内因性の気分障害と心因性の適応障害の鑑別が困難になっている.本研究では,気分障害(大うつ病性障害・単一エピソード,大うつ病性障害・反復性,双極性障害)と適応障害による抑うつ状態の回復時の精神症状を比較し,その差異について検討する. 【対象】  川崎医科大学附属病院心療科外来を抑うつ状態で受診し,米国精神医学会による「精神障害の分類と診断の手引き」(DSM-Ⅳ-TR)1)によって気分障害または適応障害と診断された患者のうち,治療により回復した患者135例を対象とした. 【方法】  2005年1月から2005年3月までの間に外来受診した患者のうち,抑うつ状態から回復し維持療法のために受診している気分障害(大うつ病性障害・単一エピソード,大うつ病性障害・反復性,双極性障害)と適応障害の患者について,主治医がハミルトンうつ病評価尺度(HAM-D)による客観的症状評価を行った.また,患者にはベックうつ病評価尺度(BDI)と精神症状評価尺度(SCL-90-R)の自己質問紙表を用いて主観的症状評価を行った.各疾患群のHAM-Dの正常群について,SCL-90-RとBDIを用いて,精神症状,主観的評価と客観的評価,性差,などについて調査した. 【結果】  適応障害,大うつ病性障害・反復性,大うつ病性障害・単一エピソード,双極性障害の順に,SCL-90-Rは高い得点を示した.適応障害は大うつ病性障害・単一エピソード,大うつ病性障害・反復性,双極性障害と比べて,SCL-90-R得点が有意に高かった.  適応障害は,大うつ病性障害・単一エピソード,大うつ病性障害・反復性,双極性障害と比べて,BDI得点が有意に高かった.  各疾患群においては,男性と女性で,SCL-90-R得点において有意な差を認めなかった.  各疾患群のSCL-90-Rの下位分類の形態は,いずれも強迫症状と抑うつ症状の得点が高い2峰性を示した. 【考察】  SCL-90-Rは,幅広く精神症状とその重症度を捉えるが,より神経症性障害の症状を反映しやすく,その得点が高いことは神経症性障害を主体とした精神症状を呈しているか或いは自覚していることを示す.本研究での各疾患群のSCL-90-Rの得点が,適応障害,大うつ病性障害・反復性,大うつ病性障害・単一エピソード,双極性障害の順に高いという結果は,その順に,回復時にも精神症状を呈している或いは自覚していると考えられ,治療の際に配慮が必要と考えた.この結果は,心因が大きく関与している可能性が高いものほど,抑うつ状態回復時にも精神症状を呈しやすいことを示唆しているものと考えた.適応障害においては,大うつ病性障害・反復性,大うつ病性障害・単一エピソード,双極性障害に較べて主観的評価(BDI)が有意に高いということは,抑うつ状態の客観的改善にも関わらず,抑うつ症状を自覚しているということであり,治療の際に配慮が必要と考えた.また,このように主観的評価と客観的評価に大きな較差が生じることは,適応障害の病前性格として,心身の不調を過度に自覚する傾向や自己を過度に低く評価する傾向が認められるためではないかと考えた.  各疾患群で強迫症状と抑うつ症状が高い値を示していることは,気分障害圏の病前性格において強迫性格傾向が強いという報告に一致し,強迫症状と抑うつ症状は密接な関係をもつことを示唆しているものと考えた.また,各疾患群でのSCL-90-R得点の違いはあるものの,抑うつ状態を呈した適応障害と気分障害のSCL-90-Rの下位分類のプロフィールは同型であり,抑うつ状態を呈した適応障害は,気分障害圏の一群である可能性が考えられた. (平成17年9月1日受理)
著者名
松下 兼宗
31
2
85-96
DOI
10.11482/KMJ31(2)085-096.2005.pdf

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