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Online edition:ISSN 2758-089X

FANCA遺伝子の変異およびポリモルフィズムの機能的意義の評価

 Fanconi貧血(FA)は,FANCAタンパクのようなFAコア複合体の構成遺伝子や,FANCD2タンパク,時にその他の関連遺伝子の変異によって引き起こされる稀な遺伝疾患である.FAコア複合体は,DNA損傷によってFANCD2タンパクをモノユビキチン化するE3リガーゼとしての役割を果たしている.FA患者由来の細胞はマイトマイシンC(MMC)やcisplatinのようなDNA架橋剤に高感受性を示す.最近,FA患者ではない癌患者においても,FA遺伝子の変異やメチル化による発現低下が検出された.しかし,癌患者におけるFA遺伝子の変異が細胞におよぼす影響は全く調べられていない.  今回,患者由来の変異ないしは一塩基多型(Single Nucleotide Polymorphism:SNP)を有するcDNAを,ニワトリB細胞株DT40細胞から作製したFANCA欠損細胞の系に発現させ,cisplatinへの感受性の相補や,FANCD2モノユビキチン化および核内フォーカス形成について検討した.癌患者由来のSNPをもったFANCAはcisplatin感受性の相補は不完全で,MMC処理後のFANCD2モノユビキチン化はやや減少していた.しかし,これらの細胞は野生株FANCAを欠損細胞に発現した際と同様に,MMC処理後に核内フォーカスを形成した.一方でFA患者由来の変異をもつcDNAを発現させた細胞では,核内フォーカスは全く観察されなかった.これらの結果から,癌患者で認められたFANCAのSNPは,FA経路の部分的欠損によってゲノム不安定性を引き起こし,さらには癌を発症させた可能性があることが示唆された. (平成18年10月10日受理)
著者名
大関美緒子
33
2
87-99
DOI
10.11482/2007/KMJ33(2)087-099.2007.pdf

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