膵胆管合流異常症は,胆道系癌が発生することで前癌状態として認識されている.その発癌機序の一つとして,膵液の胆管への逆流が関与していると考えられている. そこで我々は,ハムスターに外科的に胆汁・膵液・十二指腸液が確実に胆道内に逆流する処置を加え,いわゆる膵胆管合流異常症モデル(cholecy stoduodenostomy with dessection of the extrahepatic bile duct on the distal end of the common duct 以下CDDBモデル)を作成し,胆汁,膵液を含む十二指腸液の逆流が,胆道上皮へ及ぼす影響を検討した.術後,全てのハムスターに基本飼料を与え,水道水を自由摂取させた.そして発癌剤を投与することなく6ヶ月および12ヶ月以上観察した. 病理組織学的には,6ヶ月観察の6例全例に胆嚢上皮の過形成を認め,1例では高度の腺管の異形成が認められた.そして胆嚢粘膜の増殖細胞の検出をPCNA LIを用い測定した結果, CDDBモデルは,手術非施行例に比べ高値であった.肝外胆管上皮は炎症細胞の浸潤はあるものの過形成は認められなかった.肝内胆管,膵管上皮には特別な病変を認めなかった. 12ヶ月以上観察できた14例の胆嚢では,全例に胆嚢上皮の過形成がみられ,異形成はみられなかった.一方肝外胆管では,上皮の過形成が14例中半数の7例にみられ,1例に肝外胆管癌の発生を認めた.しかしK-ras遺伝子変化はみられなかった.6ヶ月に比べ12ヶ月の長期観察では肝外胆管にも変化がみられた. この実験結果より,発癌剤を投与しなくとも, CDDBモデルは逆流した膵液と胆汁を含む十二指腸液が長期間にわたり直接粘膜に接触すると,胆嚢上皮と胆管上皮の細胞回転が亢進し,過形成,異形成が発症し,さらには発癌に至ることが示された. すなわち,この実験モデルは,発癌物質を投与することなく胆道の前癌状態から発癌にいたる過程を観察でき,発癌機構を解明できる有用なモデルとなる可能性がある. (平成14年10月18日受理)
著者名
竹尾 智行,他
巻
28
号
4
頁
279-286
DOI
10.11482/KMJ28(4)279-286.2002.pdf
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