h_kaishi
Online edition:ISSN 2758-089X

パラコート肺の発生機序に関する実験的研究

 パラコート中毒では未だにその病態生理は不明な点が多く,特にパラコート肺は,急性期,慢性期を通して,生命予後に大きく関与する病変である.このことから,肺胞洗浄液中の活性酸素の変動を測定し,パラコート肺の発生機序に関して検討した.活性酸素の測定においては, MCLA (ウミホタルルシフェリン誘導体, 2-methyl-6- (p-methoxy-phenyl) -3, 7-di-hydroimidazo[1,2- α] pyrazin-3-one)を用いて行った.実験は,12週令のSD系ラットの雌を用い,体重当たり120 mg/kg (高暴露群,LD50量の4倍量),60mg/kg (中暴露群群,LD50量の2倍量), 30 mg/kg (低暴露群群,LD50量)のパラコートを腹腔内投与し,それぞれの群の肺胞洗浄液中の活性酸素を測定した.その結果,肺胞洗浄液中の活性酸素の生成量はいずれの群においても,有意に増加していた.特に低暴露群においては,投与2日後に加え,投与6日後において有意に増加した.この低暴露群における所見は,従来,報告されていなかったものである.また,その増加は, Superoxide dismutase (SOD)を添加することにより完全に抑制された.病理組織学的には活性酸素の生成量が増加していた時期を同じくして,好中球の肺胞への浸潤,肺胞洗浄液中の好中球の出現を見た.これらのことより,肺胞洗浄液を用いた活性酸素の測定は,パラコート肺の病変を知るのに有用な方法であり,肺病変の出現に活性酸素,特にsuperoxideが大きく関与していることが判明した.低暴露6日後にも活性酸素の有意な増加を認めたことは,低暴露の場合に見られるintraalveolar fibrosis (パラコート肺)の成因にも活性酸素,特にsuperoxideが大きく関与していることを推測させた.病理組織学的所見もあわせて考えると,少なくとも暴露後一週間までは,活性酸素(suproxide)および好中球機能を抑制することが,本中毒の治療として重要であることが示唆された.                               (平成12年10月25日受理)
著者名
奥村 徹
27
1
31-40
DOI
10.11482/KMJ27(1)031-040.2001.pdf

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