Online edition:ISSN 2758-089X
川崎医科大学附属病院矯正歯科における口唇裂口蓋裂患者の臨床統計的観察 一矯正歯科創設以来の11年間について一
当病院矯正歯科における口唇裂口蓋裂(CLP)患者の経年的変遷を把握するために,当科創設後11年間の514名を対象に臨床統計的観察を行うとともに,当科創設前9年間の60名についての前回調査との共通項目について比較検討した.総初診患者に対するCLP患者率は国内の他診療機関よりも大きく, 32.6%を示し,前回の22.4%よりもさらに増加していた.男女比では前回より男子の割合が増加傾向を示した.初診時年齢分布のピークは0歳にあり,他機関とは大きな違いを示し,前回の6歳よりも大幅に低年齢化した.治療開始年齢分布のピークは5歳で,前回(6~7歳)よりもやや低年齢化した.居住地分布では比率の上で岡山は減少傾向,広島は増加傾向を示し分布の広域化が伺えた.咬合発育段階ではともにⅡCが最も多いが,全体の分布は若年の方へ移動し,他機関とは様相を異にした.裂型分布では唇顎口蓋裂は減少し,口蓋裂が増加した.咬合異常の状態では前回は交叉咬合,下顎前突,前歯部叢生の順に82~42%の高率を示したが,今回は下顎前突,交叉咬合,前歯部叢生の順で50~27%であり,複雑な咬合異常が未だ十分に顕在化していなかった.上顎側切歯の先天的欠如歯の頻度については他機関とほぼ類似していた.このようにほとんどの各調査項目において他機関との相違を示したのは,当科ではCLP患者の矯正治療は0歳から始まると言う基本方針を持ち,かつチーム医療体制の充実により形成外科からの紹介が円滑に行われるためであろう.また,前回調査に比べても多様な変化を示したのは,CLP起因の咬合異常の矯正治療に健康保険・育成医療制度が導入され,さらに矯正歯科が常設となり,チーム医療体制が次第に整備されて行ったためであると考える. (平成8年7月13日採用)
- 著者名
- 石井 正光,他
- 巻
- 22
- 号
- 2
- 頁
- 63-72
- DOI
- 10.11482/KMJ22(2)63-72.1996.pdf