Online edition:ISSN 2758-089X
保存的頸部郭清術後の胸鎖乳突筋萎縮に関する研究一臨床的考察一
保存的頸部郭鎖清術(Modified neck dissection ; MND)後の胸鎖乳突筋の萎縮の病態を究明するために, MND後筋萎縮を来した40症例を対象として,視診と触診による萎縮の部位,筋電図検査による萎縮の原因,超音波検査を用いた萎縮および筋線維化の程度,徒手筋力テストによる筋力低下について検討した.胸鎖乳突筋の萎縮部位は,胸骨頭と鎖骨頭の両者に生じた症例が18例と最も多く,ついで胸骨頭のみが12例,鎖骨頭のみが6例であり,筋全体に及ぶ萎縮は4例であって,筋萎縮の90%は筋尾側部に認められた.筋電図検査では,神経原性萎縮が24例,阻血性萎縮が11例,両者が混在したものが5例であった.超音波検査では,萎縮の程度と筋の線維化は,阻血性萎縮を示したものの方が神経原性萎縮を示したものより強かった.また筋萎縮に伴う筋力低下には,筋萎縮と程度,筋萎縮を来さなかった部位の代償性肥大の有無が関与した.これらのことより,MND後の胸鎖乳突筋の萎縮には,筋尾側の栄養動脈の損傷と同筋の筋肉内神経線維の局所的な損傷が関与することが示された.胸鎖乳突筋の術後の萎縮を防止するためには,術中同筋を愛護的に扱い,筋肉内神経線維と上甲状腺動脈および甲状頸動脈の分枝の損傷を防止することが重要であると考えられた. (平成8年9月10日採用)
- 著者名
- 大多和 孝博
- 巻
- 22
- 号
- 2
- 頁
- 91-99
- DOI
- 10.11482/KMJ22(2)91-99.1996.pdf