Online edition:ISSN 2758-089X
保存的頸部郭清術後の胸鎖乳突筋萎縮に関する研究一胸鎖乳突筋の微細解剖による考察一
保存的頸部郭清術(Modified neck dissection ; MND)後の胸鎖乳突筋の萎縮を防止するため,遺体を用いてMNDを想定した解剖を行い,同筋の支配神経と栄養動脈を同定し,術中に損傷する可能性を調査し,筋萎縮の予防法を検討した.胸鎖乳突筋の支配神経は,副神経と頸神経(C2,C3)からの枝であり,その筋進入状態は,副神経が筋を貫通し分布する群(38.5%)と副神経本幹が胸鎖乳突筋枝と僧帽筋枝に分枝して筋に分布する群(61.5%)に2分された.支配神経の筋進入の高さは,総頸動脈分岐部の高さも含めて,90.8%の例がその頭側であった.副神経と頸神経の分布様式は,副神経が筋を貫通する群では2型に,貫通しない群では4型に亜分類された.胸鎖乳突筋の栄養動脈については,筋を上下に2分して検討した.筋頭側1/2の主動脈は,後頭動脈(75%)か外頸動脈(25%)からの分枝であり,副神経に並走しながら下行して筋を栄養した.分布領域の面積比率は後頭動脈の分枝が36.5%で,外頸動脈の分枝は35.8%であった.補助動脈は後耳介動脈の分枝(85%)で,その分布領域の面積比率は9.8%であった.筋尾側1/2の主動脈は,上甲状腺動脈の分枝(95%)で,分布領域の面積比率は37.2%であった.補助動脈は鎖骨下動脈の枝,分布領域の面積比率は10.3%であった.主動脈の分布領域の面積比率の平均は36.2%で,補助動脈のそれは10.1%であった.支配神経や栄養動脈付近に,かなりの数のリンパ節が存在した.術後の筋萎縮を防止するために術中に注意する点は1)予防的郭清においては,上内深頸リンパ節の郭清上限を総頸動脈の内外分岐部までとする.2)副神経と頸神経の分布様式を充分理解し,同定温存しながらその周囲のリンパ節を慎重に郭清する.3)筋を授動,牽引する際は愛護的に扱い,筋肉内を走行する神経線維の損傷を避ける.4)筋の横切断は避けて,上甲状腺動脈および鎖骨下動脈の分枝を温存する. (平成8年10月1日採用)
- 著者名
- 大多和 孝博
- 巻
- 22
- 号
- 3
- 頁
- 143-155
- DOI
- 10.11482/KMJ22(3)143-155.1996.pdf