Online edition:ISSN 2758-089X
単離心室筋細胞における低酸素条件のCa2+ transientに及ぼす影響
〔目的〕心筋虚血時の心筋細胞内Ca2+動態の異常を検討する目的でFura2-AMを用いてモルモットの単離心筋細胞で低酸素条件下でのCa2+ transient を測定した.また高頻度の刺激を与えてCa2+ transientを測定し,それらの変化について観察した.〔対象と方法〕4-7週齢(300~400 g)のハートレー系モルモットの心筋からcollagenaseを用いて単離心室筋細胞を得た.Ca2+ transientは, Fura2-AMを負荷した細胞を340 nm と380 nmの紫外光で励起, 510 nm の蛍光波長を測定し, NEC PC-9801を用いて両者の比を求めた.低酸素負荷下でのCa2+ transient (以下低酸素条件)は, 100% N2を通気したTyrode液を30分以上灌流することによって得た.また高頻度刺激は,細胞外より1 sec 間隔の基本刺激で駆動中に200 msec 間隔の高頻度刺激を3発加え,前後の変化を観察した.〔結果〕心筋細胞に高頻度刺激を加えるときCa2+ transient は加重して段階的に上昇する,低酸素条件に放置するときは,高頻度刺激時に段階的増加はみられなかった. Ca2+ transientが立ち上がりの時点よりピーク値の1/2まで減衰するまでの時間(1/2 decay time)は,低酸素条件で短縮していた.また,高頻度刺激を加えた後では,有酸素条件では刺激を加える前に比べて差がなかったのに対して,低酸素条件ではさらに短縮するのがみられた.しかし1/4まで減衰するまでの時間(1/4 decay time)を測定するとき, Ca2+ transient下降相の短縮は消失する. Ca2+ transientの振幅は,低酸素条件に2時間放置して初めて高頻度刺激により減少した.静止時のCa2+レベル(EDFR)は,低酸素条件において高頻度刺激を加えるときに次第に上昇した.〔考察〕低酸素状態では単離心筋細胞内のATPが減少し, ATP依存性のK+ channel の開口により活動電位持続時間が短縮することで1/2 decaytimeは短縮し,またATPの減少が筋小胞体のATP依存性のCa2+取り込みの減少をもたらしたために,1/4 decay time はむしろ延長し,さらに高頻度刺激によりEDFRが上昇したのではないかと考えられた. (平成6年10月31日採用)
- 著者名
- 田中 淳二
- 巻
- 20
- 号
- 4
- 頁
- 293-302
- DOI
- 10.11482/KMJ20(4)293-302.1994.pdf