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Online edition:ISSN 2758-089X

嚥下運動の筋電図学的研究 一第1報:正常人の嚥下運動における口輪筋と胸鎖乳突筋の関与について一

主に脳血管障害に伴う嚥下障害に対して簡便な評価方法を検討するために,21名の正常者を対象として,嚥下運動における両側の口輪筋及び胸鎮乳突筋の表面筋電図を施行した.嚥下物には,口腔内唾液, 24.5°C室温ゼリー(5ml・10ml), 0°C冷却ゼリー(5ml・10ml)を用い,5分間ずつの間隔をおき,この順序で嚥下運動を施行した.その結果,次に述べる興味ある結論が得られた.(1)口輪筋の収縮持続時間は,平均1,444.04±438.59 msec (口腔内唾液)から1,944.04±667.78 msec (室温ゼリー10ml)まで分布し,冷刺激により持続時間が短縮する性質が認められた.(2)胸鎖乳突筋の収縮持続時間は,平均1,286.90±330.21msec (口腔内唾液)から1,663.09±710.30msec(冷却ゼリー10ml)まで分布した.室温ゼリー10ml及び冷却ゼリー5 mlで持続時間が短縮する性質が認められ,口輪筋とは異なっていた.(3)胸鎖乳突筋の収縮開始時間は,口輪筋を基準にすると遅延する傾向にあり,その全人数に対する割合は, 57.1% (口腔内唾液)から95.2% (冷却ゼリー5 ml)であった.時間は平均147.61±213.73msec (口腔内唾液)から382.14±372.16msec (室温ゼリー10ml)まで分布した.さらに,冷刺激により開始時間が早くなる傾向が認められた.(4)嚥下に要した時間に対する各筋の収縮時間の割合では,口輪筋が80%以上の収縮を示した人数の比率は85.7%(室温ゼリー5 ml)から100%(室温ゼリー10ml・冷却ゼリー5ml)を占めた.胸鎖乳突筋では52.4% (室温ゼリー10ml)から66.7% (口腔内唾液)であった.(5)嚥下運動の時期との関連では,口輪筋が口腔期・咽頭期の全期に関与し,胸鎖乳突筋は口腔期中期より咽頭期に関与し,特に咽頭期を主体に関与している可能性が強く示唆された.これらの結果より,この二つの筋はよく嚥下運動を反映しており,本研究による方法が実際の嚥下障害患者に応用できると考えられた.        (平成3年8月31日採用)
著者名
本多 知行
17
2
183-191
DOI
10.11482/KMJ17(2)183-191.1991.pdf

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