Online edition:ISSN 2758-089X
嚥下運動の筋電図学的研究一第2報:正常人の嚥下運動における体位の影響について一
著者は先の研究において,両側の口輪筋及び胸鎖乳突筋の表面筋電図により,これらの筋が嚥下運動を比較的良く反映していることを報告した. 今回は嚥下障害患者の治療に際し,しばしばその重要性が指摘されている体位について検討するために,先の報告と同-の対象及び同一の手法を用いて,各種体位が嚥下運動に及ぼす影響について検討した.体位は臥位を基準として,体位60°,体位30°に設定し,各体位で口腔内唾液,冷却(0°C)ゼリー5 ml, 室温(24.5°C)ゼリー10 ml を嚥下させた. その結果,次に述べる興味ある結論が得られた.(1)口輪筋の収縮持続時間については,体位60°で,平均1,300±426.61 msec (冷5)から1,569.05±554.63 msec(温10)まで分布した.体位30°では,平均1,188.10±360.18 msec(冷5)から1,347.62±566.89 msec (温10)まで分布した.坐位に比較すると,収縮持続時間の短縮が認められ,体位30゜の冷5・温10嚥下で有意に短縮していた.(2)胸鎖乳突筋の収縮持続時間については,体位60°で,平均1,207.14±273.53 msec(冷5)から1,392.86±457.24 msec(温10)まで分布した.体位30゜では,平均1,133.33±307.54msec(唾液)から1,314.29±450.59 msec (温10)まで分布した.収縮持続時間は坐位に比較すると短縮する傾向を認めたが,体位60°では有意差がなく,体位30゜での冷5嚥下で有意差を認めた.(3)胸鎖乳突筋の収縮開始時間については,体位60゜で,平均92.86±106.40 msec (唾液)から114.29±167.44 msec (温10)まで分布した.体位30°では,平均100.00±182.35msec(温10)から159.52±184.81 msec (冷5)まで分布した.体位60°と体位30°のいずれの場合においても,坐位に比較すると収縮開始時間が短縮していた.(4)体位60°と体位30°とを比較すると,各筋の収縮持続時間及び胸鎖乳突筋の収縮開始時間に有意差を認めなかった.以上の結果より,体位は嚥下における口腔期の時間を短縮させる影響があることが示唆された.さらに咽頭期に密接に関与している胸鎖乳突筋の収縮開始時間を早くする影響が認められた. (平成3年10月25日採用)
- 著者名
- 本多 知行
- 巻
- 17
- 号
- 3
- 頁
- 297-305
- DOI
- 10.11482/KMJ17(3)297-305.1991.pdf