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Online edition:ISSN 2758-089X

係蹄上皮細胞の動態から見た糸球体硬化過程-ボウマン嚢上皮細胞の関与-

Bromodeoxyuridine (BrdU)はS期細胞周期に細胞に取り込まれることから,[3H]-thymidineと同様に細胞動態解析に有用とされている.今回,糸球体係蹄上皮細胞を中心にBrdUを使用し免疫組織学的に,さらに電子顕微鏡も用いて,正常成熟過程と糸球体硬化過程での細胞動態を観察した.新生仔と成熟Wistar系ラットの腹腔内にBrdUを投与し2時間後に腎臓を取り出し免疫組織学的に検討した.また同時に透過,走査両電子顕微鏡にて超微形態学的に観察した. 新生仔ラットではすべての糸球体成熟像が観察できた.未熟な糸球体ほど皮質表層に存在した.将来係蹄上皮細胞やボウマン嚢上皮細胞に分化するS字管の上皮細胞に標識を認め,以後係蹄が形成されるにつれて係蹄上皮細胞の標識は観察できなくなった.一方,他の糸球体係蹄細胞では,内皮細胞やメサンギウム細胞に標識を確認できるようになった.電子顕微鏡にて,形態学的に血管形成期に徐々に分化,発達する係蹄上皮細胞が観察された.成熟ラット(110 g)での,係蹄細胞の標識率は約0.54%で,ほとんどが内皮細胞であった.ボウマン嚢上皮細胞の標識率は0.71%で,係蹄細胞全体より高かった. 係蹄上皮細胞を直接障害するN, N'-diacetylbenzidine (DAB)により腎障害を惹起し,コントロール群ラットと比較した.両群とも係蹄細胞の標識率の経過は同様で,生後60日前後で一定となり0.2%となった. DABにより係蹄上皮細胞に種々の形態的障害が認められても,分裂再生像や標識を認めなかった.一方ボウマン嚢上皮細胞の標識率の経過は蛋白尿が著明な160~200日にかけてDAB群で若干高く,糸球体硬化部付近に標識ボウマン嚢上皮細胞を認めた.以上より,両上皮細胞の生物学的特異性,特に分裂能力の差が,糸球体硬化過程で重要な役割を演じていると思われる.              (平成3年10月19日採用)
著者名
佐々木 環
17
4
361-376
DOI
10.11482/KMJ17(4)361-376.1991.pdf

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