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Online edition:ISSN 2758-089X

実験的大動脈弁閉鎖不全犬において心拍数が心血行動態に及ぼす影響に関する研究 -第2報:hydralazine投与下での検討-

実験的重症大動脈弁閉鎖不全(AR)犬を用いて, hydralazine (HY)投与前後において心拍数が心血行動態に及ぼす影響を検討した.雑種成犬9頭を対象に,バスケット型カテーテルを用いてARを作製した.重症AR(平均逆流率:69.2%)時に,右房ペーシングにて心拍数毎分90から段階的に増加(90 ・ 100 ・ 120 ・ 140 ・ 160 ・ 180)させ心血行動態諸指標を記録した後, HY 0.4 mg/kg を経静脈的に投与し,投与後20分から40分の間に重症ARと同様に段階的に心拍数を増加させ心血行動態諸指標を記録した.1)HY投与前:心拍数増加により,毎分140までは全末梢血管抵抗の減弱ならびに拡張期時間/収縮期時間比の急峻な短縮により逆流率が改善,前方心拍出量が増加し,心血行動態は改善した.しかし,心拍数毎分140以上では,心筋虚血に基づく左室拡張期特性の異常と収縮能の低下のため左室拡張末期圧が上昇し,全心拍出量が低下し,全末梢血管抵抗の増大による逆流率の増加が加わり前方心拍出量がさらに低下し心血行動態は悪化した. 2 ) HY投与後:心拍数毎分140までは,全末梢血管抵抗の減弱により逆流率は改善,前方心拍出量は増加,左室拡張末期圧は低下し,心血行動態はさらに改善した.心拍数毎分140以上では,全末梢血管抵抗は増加せず,逆流率は不変で前方心拍出量の減少は軽微であった.また,心筋虚血は示されず左室拡張期特性の異常と左室拡張末期圧の上昇が軽微であった.したがって重症ARに対しては,HY投与はいずれの心拍数でも心血行動態を著明に改善し,頻拍時の心血行動態悪化も軽微にとどまった.以上より,ARに対する薬物療法としては,血管拡張剤の投与が好ましく,さらに頻拍時に生じる血行動態の悪化を軽減させると考えられた.(平成2年9月17日採用)
著者名
中村 節
16
3.4
209-220
DOI
10.11482/KMJ-J16(3.4)209

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