Online edition:ISSN 2758-089X
腹腔動脈の破格について ―右副肝動脈だけが肝臓に分布する1例―
右副肝動脈は,約10%の頻度で出現する過剰枝で,通常上腸間膜動脈から分岐して門脈の背側をとおり胆嚢・肝臓右葉に分布する. 1988年度川崎医科大学解剖学実習において,総肝動脈が欠如して,右副肝動脈だけが肝臓全体に分布し,さらに左副胃動脈をも分枝する1例が見つかった.これは, Adachiの分類によれば,第VI型第25群に属する変異で,これまでにも10数例の報告がある.しかし,本例は,胃十二指腸動脈が右副肝動脈の2叉した左肝動脈から分岐する点でこれまでの報告例と異なっている.このことは,その分岐部が本来の総肝動脈であることを示唆する.また,左肝動脈が門脈の腹側に出てくるのは,総肝動脈の枝としての特徴を保っているからであろう.すなわち,本例のような変異は,右副肝動脈が総肝動脈の分布を代償したというより,総肝動脈の基部が消失して右副肝動脈に吻合したものと解釈できる.これに基づいて,発生学的な模式図を示した.(昭和63年12月23日採用)
- 著者名
- 松本 真,他
- 巻
- 15
- 号
- 1
- 頁
- 122-128
- DOI
- 10.11482/KMJ-J15(1)122