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Online edition:ISSN 2758-089X

肝疾患とエンドトキシン

エンドトキシン(Et)と肝疾患の研究は三つの発見によって進歩してきた.まず第一に,1892年にPfeifferがコレラ菌から耐熱性毒素を見いだし,Etと名付け研究が開始された.最近になってEtの分子構造が解明され,多彩な生物活性を治療に応用する試みがなされている.第二には1970年にLevinらによりカブトガニ血球抽出物を用いたリムルステストが創案され,Etの検出法として広く用いられることとなった.第三には1972年Caridisらは重症肝疾患例に敗血症を伴わないEt血症を認め,内因性Etと肝疾患との関係が注目されるようになった.肝疾患での内因性Et血症の成因として, RES機能低下,肝実質細胞のEt処理能の低下,肝側副血行路の発達,腹膜からのEt吸収の亢進,腸内細菌叢の変化,腸粘膜からのEt吸収の亢進,Et不活化因子(EIF)の低下等が想定されている.一方,肝障害の成因として,Etによる直接の肝障害のほかに, Shwartzman反応の関与,Et血症に伴う肝循環障害や補体,プロスタグランディンの関与,さらにEtにより刺激されたKupffer細胞による肝障害等が示唆されている.このように,内因性Etが肝障害の促進因子か,または肝障害の結果として内因性Et血症がみられるのかは,いまだ明らかではない.最近,合成発色基質を用いた定量的リムルステストが開発され,Etの研究の新しい展開を迎えた.肝障害が進展するに伴って,血中Etの上昇と細網内皮系(RES)機能低下が認められ,また肝細胞癌に対する肝動脈塞栓術後にも同様の変動がみられている.今後は,Etの有用な生物活性を生かした合成化合物の研究,内因性Etの本態および肝疾患との因果関係について多角的な検討が望まれる.(昭和64年1月4日採用)
著者名
大元 謙治,他
15
2
189-208
DOI
10.11482/KMJ-J15(2)189

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