Online edition:ISSN 2758-089X
DPP-IV阻害薬 Vildagliptinによる膵β細胞保護作用の分子機構の解明~2型糖尿病モデルおよび非糖尿病コントロールマウスを用いた検討
DPP-IV 阻害薬による耐糖能改善,膵β細胞機能障害進展阻止作用が明らかになっているが,その分子機構については不明な点が多い.本研究は,DPP-IV 阻害薬による膵β細胞保護効果の分子機構を明らかにするために,糖尿病モデルKKAy-TaJcl(KKAy)マウスと非糖尿病モデルC57BL/6J(B6)マウスを用いて,生化学的や組織学的検討に加え,膵β細胞特異的な遺伝子発現の網羅的解析を行った.8週齢雄性の両モデルマウスを,それぞれVildagliptin 投与群と非投与群の2群に分けて4週間介入した.遺伝子発現はLCM 法により取り出した膵ラ氏島コア領域サンプルを用いて,Real timeRT-PCR 法により解析した.KKAy,B6ともに,介入期間中の摂餌量,体重および介入終了後の空腹時血糖値,血中インスリン値,血中グルカゴン値,活性型GLP-1値は,Vildagliptin 投与の有無で差を認めなかった.KKAy の血中中性脂肪値,膵ラ氏島中性脂肪含量およびインスリン感受性はVildagliptin 投与群で有意な改善を認めた.経口糖負荷試験でみた耐糖能はvildagliptin を投与したKKAy で有意に改善し,インスリン分泌増加を伴っていた.糖負荷後の活性型GLP-1血中レベルは,両マウスともVildagliptin 投与で有意に高値を示した.膵ラ氏島のインスリン含量および高濃度グルコース応答性インスリン分泌反応,膵β細胞重量はVildagliptin 投与によって有意に増加した.遺伝子発現解析の結果,KKAy,B6ともに,Vildagliptin 投与群で分化増殖関連遺伝子発現の有意な増加を認めた.一方,抗酸化ストレス関連遺伝子発現の増加,小胞体ストレスおよびアポトーシス誘導遺伝子発現の低下,抗アポトーシス関連遺伝子発現の増加をVildgliptin 投与KKAy マウスでのみ認めた.膵ラ氏島を用いた免疫染色の結果は,遺伝子解析結果と良く一致していた.DPP-IV 阻害薬のβ細胞保護効果の分子機構として,活性型GLP-1増加によるGLP-1シグナル増強が,直接的な細胞の分化・増殖促進効果と,糖脂質代謝改善による間接的なβ細胞の酸化ストレス,小胞体ストレスの軽減,アポトーシス抑制効果をもたらす可能性が示唆された.(平成23年10月22日受理)
- 著者名
- 濵本 純子
- 巻
- 37
- 号
- 4
- 頁
- 195-210
- DOI
- 10.11482/Kawasaki_Igakkaishi37(4)195-210.2011.pdf