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Online edition:ISSN 2758-089X

心筋内容量血管の血液貯留状態が拡張期冠動脈血流動態に与える影響

拡張期の心筋内容量血管には,血管内圧変化を伴わずに血液を貯留しうる, unstressedvolume(UV)が存在する.本研究では,UV内への血液貯留状態(UVが満たされている時とそうでない時)が,拡張期冠動脈血流動態にいかなる影響を与えるかを明らかにせんとした.ここで,心筋内容量血管の血液貯留状態は,冠静脈血流の有無によって評価される.なぜなら,冠静脈血流が存在することは,心筋内血液量がUVを超えて,通常のキャパシタンスの内圧が冠静脈圧より上昇していることを示す.そこで,UVが満たされていない状態(UV unfull)とUVが満たされている状態(UV full)における冠動脈圧一流量関係(PFR)を解析して,拡張期冠動脈血流動態のパラメータを求め,互いに比較した.AVブロックを施した麻酔開胸犬7頭の左冠動脈本幹と左冠動脈前下行枝(LAD)にカニュ-ラを挿入し,灌流圧を制御した. LAD血流量と同時に,大心静脈(GCV)血流速度をレーザドプラ法で計測した.冠血流途絶(15秒間)後の延長した拡張期に,冠動脈をステップ状の種々の圧で灌流し,その後まず得られるGCV血流が出現しないuvunfullの状態と,つづいて得られるGCV血流が再出現するuv fullの状態とにおいて,LADの圧と流量よりPFRを求めた. uv unfull とuv full のPFRはいずれも高い直線性(r=0.97~0.99)を示した. uv unfull のゼロ流量時圧(Pf=0, 19.9±2.2mmHg)は右房圧(7.5±0.9mmHg)より有意に高かった(P<0. 05).冠静脈圧は右房圧より高々2~3 mmHg高値であるので, uv unfull 時のUVの内圧はほほ10 mmHg前後と考えられる.これよりPf = 0の発生部位は,心筋内容量血管よりも上流であることが窺われる. uv full の冠血管抵抗(0.69±0.8 mmH g/ ml/min)は, UV unfullのそれ(0.55±0.07 mmHg/ml/min)より有意に高く(P<0. 05),心筋内容量血管に, uvを超えて血液が貯留することは,拡張期冠動脈血流に対して血管抵抗を上昇させることにより阻止的に作用することが示された.(昭和63年3月18日採用)
著者名
後藤 真己
14
3
384-391
DOI
10.11482/KMJ-J14(3)384

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