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Online edition:ISSN 2758-089X

マウス培養後根神経節を用いた鉛中毒の実験的研究

酢酸鉛の末梢神経に及ぼす影響を調べる目的で,マウス脊髄後根神経節の組織培養を行い, 10 -4M, 10 -5M 濃度の酢酸鉛が髄鞘形成が完成した成熟培養組織に及ぼす影響と培養末梢神経の発達に及ぼす影響を検討した.髄鞘形成が完成した成熟培養組織では,10-4M酢酸鉛投与後1か月に至るまで変化は認められなかった.培養末梢神経の発達に及ぼす影響において,髄鞘の発達に関しては,10-4M酢酸鉛投与下で髄鞘形成開始の遅延と髄鞘形成率の抑制が認められた.酢酸鉛投与下で形成された有髄神経では対照群と比べてその数は少ないが,形態的に差はなかった.髄鞘層板数は統計学的に対照群との有意差は認められなかった.位相差顕微鏡下で培養約1週間後から,Schwann細胞または線維芽細胞が変性したと考えられる空胞変性細胞が観察された.また,組織片周辺部のSchwann細胞は少なく,20日以後もSchwann細胞に囲まれていない軸索が存在した.10-5M酢酸鉛投与群では,髄鞘形成率と形態観察で対照群と差は認められなかった.神経細胞と軸索の発達に関しては,10-4M,10-5M酢酸鉛投与群で形態的な変化は観察されず,形態計測的にも軸索の面積,長径,短径では対照群と差は認められなかった.以上より.組織培養実験において成熟組織では酢酸鉛の影響がないこと,成長段階の組織では髄鞘の発達抑制はあるが,神経細胞と軸索の発達抑制はないことが示唆された.(昭和63年8月24日採用)
著者名
伏見 滋子,他
14
4
594-601
DOI
10.11482/KMJ-J14(4)594

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