h_kaishi
Online edition:ISSN 2758-089X

病態検査情報解析による急性心筋梗塞の血液プロフィールおよび予後予測に関する研究

臨床化学検査を中心とする診察作法のひとつとしてCALD (computer-assisted laboratorydiagnosis)が開発され,患者の全身状態および重要臓器の障害の指摘,そしてしばしば病名の推定さえ行われるようになった.ことに, CALDは肝・胆道疾患の診断にはすぐれた成績をあげている.本研究では,0xleyらの診断基準に合致しかつ急性期に諸検査が経時的に行われた急性心筋梗塞(AMI) 71例(軽快51,死亡20)を研究対象とした.対象例に本学附属病院中央検査部のCALDを適用したところ, 52.1% (71例中37例)の診断率を得た.この数値を見るかぎりでは,残念ながら,現在稼働中のCALDは, AMIの診断に満足できる成績をあげていない.ところが,対象症例には,血清酵素アイソザイム検査が行われており,CK・MBの出現および(あるいは) LDH 1 >LDH 2 の異常所見の陽性率は94.4%であった.この事実に着目し, CALDの項目にアイソザイム検査を組み合わせることにより,臨床化学によるAMIの診断率は向上すると考えられた.ついで,臨床化学を中核にしてAMIの予後の推定を試みた.すなわち,CALDに採用されている血液化学成分19種に血液細胞成分3種(WBC, PIt, Lym)の検査項目を加えて,判別分析の手法で,軽快と死亡の転帰を予測するための判別式を誘導し,判別値を算出した.判別値Dが0を超える場合を死亡,0以下の例を軽快とみなし,予後予測を行ったところ,最終判定では,軽快群83.7%,死亡群100%の判別適中率をあげる良好な成績を得た.以上の結果より,現在実用化されているCALDの血液化学的成分(19種)に,心筋酵素アイソザイム検査(2種)を加えてAMIの診断を確実にし,またCALDの血液化学成分(19種)と血液細胞成分(3種)とを組み合わせて判別式を誘導し,それをAMIと診断された症例に適用すれば, AMIの予後予測に対し,有用な指標が得られることが期待される. AMIの診断については,これまで心電図および画像診断法が圧倒的に有用性を発揮していたが,血液化学中心の診察作法も,本研究のごとく工夫すれば日常診療に活用できると考えられた。
著者名
木村 丹
13
2
160-173
DOI
10.11482/KMJ-J13(2)160

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