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Online edition:ISSN 2758-089X

赤血球膜脂質異常症の研究 ―膜脂質異常と膜輸送能との代謝的相関に関する臨床的および実験的研究―

赤血球膜の主たる構成々分である脂質あるいは蛋白の先天的・後天的異常による溶血性貧血症例において,赤血球膜輸送能の異常がしばしば認められる.また赤血球膜異常症に膜脂質異常を伴う場合がある.本研究では主に赤血球膜異常症諸種疾患の膜脂質分析と膜輸送能の相関を検討し,あわせて実験的に作製した膜脂質異常赤血球を検索することにより,赤血球膜異常症の病態を検討した.赤血球膜脂質異常症では, hereditary high red cell membrane phosphatidylcholine hemolytic anemia (HPCHA)7例,congenital lecithin : cholesterolacytransferase (LCAT) deficiency l例, congenitalβ-lipoprotein (β-LP)deficiency4例.膜蛋白異常症では, hereditary spherocytosis (HS), hereditary elliptocytosis(HE),hereditary stomatocytosis (HSt),およびその他疾患.実験的にはphospholipase A2 (PLase A2)にて膜phosphatidyl choline (PC)に修飾を加えた膜脂質異常赤血球群を対象とした.先天性赤血球膜脂質異常症群では, HPCHA, LCAT欠損症で膜free cholesterol (FC)量・膜総phospholipids (PL)量共に著増,特にPC分画の著増が認められた. Na+influxでは, HPCHAの著明な亢進に対しLCAT欠損症ではむしろ低値であった.β-LP欠損症では赤血球膜脂質総量はほほ正常に維持されていたが,PC分画の減少とsphingomyelin分画の増加傾向が認められ, Na+ influx がほぼ正常であるのに対しCa2+ uptakeは他に類を見ないほど著明な亢進を示しており,本症での2者に著しい解離が注目された.赤血球膜蛋白異常症群においては,HSで摘脾前・後の変化が注目された.すなわち,摘脾前の膜FC量・膜総PL量・phosphatidyl ethanolamine 分画の減少が,摘脾後には正常化するが, Na+ influxの亢進は変化が認められず,病因の主体と考えられる膜蛋白の異常がNa+ influxの亢進に関与していると推定された.HEでは際立った異常は認められなかった. HStでは,膜脂質・膜輸送能とも各病型により異なる異常を呈するが両者間に相関は認められず,他の因子が関与しているものと推定された. PLase A2を用いる実験系では,無処理のcontrol群, PLase A2 処理により膜PC減少とlysoPC(L-PC)の増加を来した群,およびPLase A2 処理後さらにalbumin処理を加え増加したL-PCを除去し膜総PL量も減少した群,の3群について膜PLとNa+ influxおよびCa2+ uptakeを測定した.この結果,膜脂質の変化とNa+ influxあるいはCa2+uptakeの変化は明らかに相関を持つことが判明したが, PC ・ L-PC ・ 総PL量のどの因子が主に関与して,いるかの特定には至らなかった.また, PLase A2 処理赤血球のalbumin処理追加により,亢進したNa+ influxは変化を示さないのに比べ,Ca2+ uptakeでは更なる亢進を示し,NaとCaとではその輸送機構上に明らかな相違が存在することが判明した.
著者名
橋本 正志
13
1
30-43
DOI
10.11482/KMJ-J13(1)30

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