h_kaishi
Online edition:ISSN 2758-089X

癌細胞と腹膜,その着床と治療に関する実験的研究

腹膜播種の成立過程を追求するために AH130細胞の5×106個をラット腹腔内に注入し,腹膜面における着床増殖像の経日的変化を観察した.さらに,癌細胞移植後3日目より種々の量のMMCを腹腔内に投与して,腹膜播種に対するMMCの予防効果を検討した.また,移植後6日目より治療を開始して,腹膜播種癌細胞に対する効果を電顕的に観察し,以下のような結果を得た.I. AH130移植後3日目までは,癌細胞の着床は肝表面,壁側腹膜において観察されず,中皮細胞の微絨毛にのみ軽度の変化を認めた.II.移植後4日目以後になって,肝表面,壁側腹膜の中皮細胞上に癌細胞の着床像を認めた.中皮細胞は,移植後5~6日目になると,凹凸不整でやや丸みを帯び,中皮細胞間結合に間隙を生じ,微絨毛も短縮傾向を示した.III.移植後7日削こなると,中皮細胞上に一層の癌細胞の集合像が観察された.中皮細胞は変性して,紡錘型を呈していた.IV.移植8日目以後,癌細胞の集塊は多層化の傾向を示し,集塊同志があたかも融合する様な像が観察され,基底膜を破壊して浸潤していた.中皮細胞は変性し,一部では欠損して結合組織の露出が認められ,残存する細胞の微絨毛は短縮して瘢痕状となっていた.これらの中皮細胞の変性は肝表面では壁側腹膜に比べ軽微であった.V. AH130の着床増殖過程は,肝表面,壁側腹膜においてほほ同じ時期に始まり,差異は認められなかった.VI.実験的腹膜播種の予防を目的として AH130移植後3日目よりMMCの腹腔内注入を開始したラット群において,MMCの総投与量3,000mcg/kg未満では着床の早期にのみ有効であった.末期に至るまで予防効果を得るには, MMCに感受性の高いAH130においても,総投与量4,000mcg/kgの大量を必要とし,その際の中皮細胞の変性は強く,単独投与は予防法として適当であるとはいいがたい.VII. AH130移植後6日目より治療を開始したラット群において,MMCの投与量の増加に比例して腹水量は漸減し,腹水中の癌細胞の変性も高度になったが,腹膜播種癌細胞の増殖抑制効果はなく,総投与量3,000mcg/kgに至って有効であり,4,000mcg/kgにおいて著効を示した.この結果,腹水の減少,腹水中の癌細胞に対する治療効果と腹膜播種癌細胞に対する治療効果とは相関しているとはいいがたく,大量投与には限界があるために,投与法の工夫が今後の課題である.VIII. MMC治療群において,肝表面,壁側腹膜の中皮細胞の変性を比較すると,癌細胞の増殖部位を除けば,肝表面の方が,細胞の配列は良く保たれており,欠損部位もほとんど認めなかった.肝表面の中皮細胞の方が癌細胞の浸潤や MMCによる損傷に対して抵抗性を持つことが示唆された.
著者名
郡家 信晴
6
3
137-154
DOI
10.11482/KMJ-J6(3)137

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