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Online edition:ISSN 2758-089X

水素水はラット下部尿路閉塞モデルにおける膀胱機能改善効果を示す

下部尿路症状(low urinary tract symptoms: LUTS)は,動脈硬化や前立腺肥大症に伴う下部尿路閉塞による膀胱血流障害が原因の一つとして考えられており,症状として排尿症状,畜尿症状,排尿後症状がある.ラットの下部尿路閉塞(bladder outlet obstruction: BOO)モデルは閉塞に伴い膀胱虚血を生じさせ,酸化ストレス状態を惹起し,LUTS を引き起こす病態モデルとして確立されている.近年,水素がもつ抗酸化,抗アポトーシス作用が注目されており,様々な臓器において組織の保護作用を示すことが解明され,様々な疾患の予防と治療に応用できることが多施設,多領域から報告されている.今回,ラットBOO モデルに対して,水素水(Hydrogen Water: H2)投与を行い,抗酸化作用の検証に加え,水素水が影響を及ぼす代表的メディエーターの探索を行った. BOO モデルの作成には,9週齢の雌性ラットを用いた.開腹し,尿道に19G 針を沿わせた状態で尿道を結紮し,尿道の部分閉塞を作成した.作成直後からsham群,水素水非投与(BOO H(2 -))群と投与(BOO H(2 +))群に分け,4週間後,膀胱機能検査と組織学的,生化学的および免疫組織学的検討を行った.なお,水素水は経口投与した. 膀胱重量および一回排尿量は,sham 群に対して BOO H(2 +)群で有意差はなかったが,BOO H(2 -)群で有意に増加していた(重量 p<0.01),( 一回排尿量 p<0.05).BOO H(2 -)群と BOO H(2 +)群では有意差は認めなかった(p>0.05).膀胱内圧測定では,BOO 群で排尿筋過活動が確認され,BOO H(2 -)群では,BOO H(2 +)群と比較して,排尿筋過活動回数は有意に増加していた(p<0.01).膀胱筋層部における膠原繊維の比率については,BOO H2 (−)群でsham 群および BOO H(2 +)群に比して,有意に上昇していた(vs sham p<0.01, vs BOO H(2 +) p<0.01).膀胱組織内8-OHdG の定量では,BOO H(2 -)群は BOO H2(+)群に比して高値を示しており(p<0.05),8-OHdG 染色ではBOO H2 (-)群のみ筋層で著明な発現が認められた.網羅的ケモカイン/サイトカイン解析ではTNF-αが,BOO H(2 -)群においてBOO H(2 +)群と比較してもっとも発現が亢進しており,免疫染色では,BOO H2 (-)群で膀胱上皮粘膜下の間質および筋層においての発現の増加が認められた.一方,BOO H(2 +)群では,筋層部においての発現が抑制されていた. 水素水は,慢性虚血に起因する下部尿路症状の治療の一つになり得る可能性がある.本研究において,膀胱筋層の酸化ストレスを抑制することにより,膀胱筋層のTNF-α を中心とした炎症性サイトカインの抑制が,その作用機序の一つとして考えられた.
著者名
清水 真次朗
44
2
137-149
DOI
10.11482/KMJ-J44(2)137
掲載日
2018.11.9

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