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Online edition:ISSN 2758-089X

気息性嗄声の治療のためのマウス声門閉鎖不全モデルの検討

嗄声は,炎症や腫瘍性病変以外にも老化や筋疾患に伴う声帯筋萎縮や反回神経麻痺などによって発症する.うまく発声できないことはコミュニケーション能力の極端な低下を意味し,Quality of life(QOL)を著しく低下させる.その病態は疾患によって異なるが,声門閉鎖不全により発声時に生じる声門間隙の残存があると気息性嗄声を生じる.気息性嗄声の治療は,保存的治療から外科治療まで様々なものが存在するが専門性が高く限られた施設のみで治療される現状で,治療を受けられる患者が限定される問題がある.そのためさらに低侵襲で復元性の高い治療や汎用性の高い治療が望まれる.再生医療をふくめた新規治療の開発を進めるためには,まず声門閉鎖不全を生ずるマウスモデルの確立が必要である. 本研究では,C57BL/6マウスを用いて神経原性の声門閉鎖不全モデルとしての反回神経麻痺モデルと,加齢性の声門閉鎖不全モデルの2つのモデル動物を作成し,内喉頭筋を含む声帯の評価を行うことでマウスにおける声門閉鎖不全のメカニズムがヒトと同一であるかどうかを解明することを目的とした.また筋肉の過形成を抑制する分子であるMyostatin(以下,Mstn)を標的とし,変異Mstn を過剰発現することで全身性に筋過形成を来すマウス(以下,変異Mstn tg マウス)を用いて内喉頭筋を含む声帯の評価を行い,Mstn 阻害の臨床応用の可能性についても検討した. 反回神経麻痺モデルマウスについては,健側と比較して麻痺側では有意に甲状披裂筋萎縮が認められ,声門閉鎖不全のメカニズムはヒトと同一でありモデルとして有効であると考えられた.加齢マウスを用いた検討では,内視鏡で,声帯萎縮と弓状変化を確認出来た.甲状披裂筋萎縮はみられず声帯粘膜の萎縮とコラーゲン線維の増加が確認され,加齢に伴うヒト声帯の萎縮と同様の形態学的所見を呈することから加齢に伴う声門閉鎖不全のモデルとして有用であると考えた.変異Mstn tg マウスの内喉頭筋においては有意な筋肉量・筋線維の増大はなかったが,傍声帯間隙の脂肪が減少しており,喉頭内においても脂肪代謝に影響があることが明らかになった.
著者名
田所 宏章, 他
47
147-158
DOI
10.11482/KMJ-J202147147
掲載日
2022.1.19

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